東日本大震災で2回にわたり給付期間が延長されてきた失業手当。受給が今月から期限切れとなることに、県内離職者は生活への不安を高めている。除染が進まず古里への帰還のめどが立たない中での延長打ち切りには反発の声も出ている。一方、復旧復興関連の仕事に当たる建設業者らは深刻な人手不足に悩んでおり、雇用のミスマッチが表面化している。
■ため息
「経験がある建設、造園の仕事がしたいのに...」。いわき市の仮設住宅に家族3人で住む広野町の木田実さん(55)は12日、ハローワーク平にある求人票を見てため息をついた。
震災後、仕事をしていた時期もあったが、条件が合わずに退職。すぐにまた職探しを始めたが、なかなか次の仕事が決まらない。「求人は若い人が中心。どうしても年齢制限に引っ掛かってしまう」と嘆く。
東京電力からは30万円の賠償金を受け取ったが、生活を支えるには足りない。「働かなければ金は入らない。あと数カ月もすれば生活が苦しくなる。どうにかしなくては」と頭を抱える。
同じ仮設住宅に住む60代男性も仕事を探しているが条件に合った仕事が見つからない。「(月給が)15、6万円の仕事はあるが、それでは家族を養えない」という。
3月で失業手当は切れる。「60歳を過ぎると肉体労働も厳しい。できる仕事も限られる。最低でも2年間ぐらいは手当をもらえなければ」と不満を口にした。
「できるだけ地元で働きたい」と決意しているのは、ハローワーク相双に通う南相馬市原町区の男性(41)だ。5カ月余り職探しを続けているが、希望する営業職の仕事は見つからない。
男性は震災前、原町区で営業の仕事をしていた。郡山市にある同じ会社の事務所で働いていたが、避難先の山形県から原町区に戻った母親(70)と一緒に住むことになり、9月に退職した。
失業手当が切れる時期も迫る。「母親を置いて市外に出て働くか、希望の職種を諦め地元で慣れない仕事に就くか」。葛藤に悩む日々が続く。
■難しい判断
厚生労働省は失業手当の延長を打ち切る理由について、復興事業で求人が増えていることを挙げた上で、「手当に頼り失業期間が長期化すると、再就職の意欲が薄れる」と説明する。さらに、「被災者も事業主も、次の歩みを決める区切りの時期にきているのではないか」との指摘する行政関係者もいる。福島労働局は、手当に頼り求職活動をしていない受給者がいるのは事実とし、「各ハローワーク単位でセミナーを開催し、再就職への意欲を促したい」としている。
しかし、原発事故が起きた本県は岩手、宮城両県とは状況がまるで異なっている。職場があった古里の除染が進まないため帰還できなかったり、帰還時期が見えない離職者もいる。古里に帰ることを考えたとき、再就職をするとしてもどこですればいいのか判断が難しい。事業再開を見据え、雇用を維持したまま休業を続けている企業もある。今回の打ち切りに反発する声は多い。
■人手不足
一方、約2万2000人が市外に避難している南相馬市では、病院、福祉施設の復旧と大震災・津波被災地の復興、除染が課題だが、人手不足が深刻な状況だ。原町商工会議所の調査では、建設業を含む工業、医療・福祉を含むサービス業の多くの事業所が「従業員の確保」を課題の上位に挙げている。
市は昨年10月、原町区で合同就職面接会を開いた。市内を中心に32社が求人を出したが、訪れた求職者は高校新卒者を含めて76人しかいなかった。復旧・復興を担う建設業の人手不足は特に深刻だ。技術者や作業員の多くが避難を兼ねて復興が先行する宮城や岩手両県で仕事をしているという。
県建設業協会相双支部の石川俊副支部長は心配する。「これから除染事業が本格化する。市民らの求職がないと前に進めない」
県内の他の地域も同様の問題を抱えつつある。県内の昨年11月の有効求人倍率は0.71倍になり、明らかに求人は増えている。震災直前の2月の0.50倍に比べても0.21ポイント上回っている。
【背景】
失業手当は雇用保険制度に基づき、失業した労働者に4週間ごとに支給される。失業手当の日額は、原則として離職した日の直前6カ月に毎月決まって支払われた賃金の合計を180で割って算出した1日当たりの額(賃金日額)のおよそ50~80%になっている。手当の日額の上限額は30歳未満が6455円、30~45歳未満が7170円、45~60歳未満が7890円、60~65歳未満が6777円。給付期間は本来、90~330日と定められている。東日本大震災に伴い、2回にわたり特例的に延長されたが、国はさらなる延長はしない方針を示している。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)