東日本大震災アーカイブ

今を生きる 春、福島でコメ作る 衰退危機避けたい

決意を胸にトラクターの前に立つ橋本さん

■二本松の橋本達也さん
 「地元の人たちに安心して食べてもらえるコメが作りたい。それが一番の目標です」。二本松市表の橋本達也さん(32)は今春から本格的に就農し、専業農家になる。東京電力福島第一原発事故による風評被害などで耕作を放棄されそうな田の耕作も担う。若手農家の真っすぐな志は農業の明日を見詰めている。
 橋本さんは3年前に勤めていた建設会社を退職した。もともと土に触れるのが好きだったこともあり、「太陽の下で働きたい」と農家を目指すことにした。知人の福島市松川町の農業佐藤清一さん(62)宅で世話になりながら、農業の勉強に励んできた。
 田起こし、田植え、水の管理、肥料の与え方、稲刈り...。覚えることは山ほどあった。懸命に取り組む橋本さんの真面目さと人当たりの良さは、近所でも次第に評判となった。
 原発事故後、福島市や二本松市などのコメから国の暫定基準値を超える放射性物質が検出された。農業を取り巻く暗い影に、一時は新聞やテレビを見るのも嫌になった。
 今春から松川町の複数の農家から借り受けた水田約1ヘクタールを耕作する。高齢化や放射性物質の影響で、コメ作りが衰退する危機を少しでも回避したいという。
 指導してきた佐藤さんは「大変な時期に就農し、挫折することもあると思う。それを乗り越えて地域農業の救世主になってほしい」と期待する。橋本さんは「自分がやらなくちゃいけない。これからも勉強を続け、頑張っていきたい」と表情を引き締めた。

カテゴリー:連載・今を生きる