東日本大震災による津波被害を受けた相馬、南相馬、新地、広野の4市町で平成24年度から本格化する農地復旧事業。農地の集約を目指すが、地権者の合意形成は難航が予想されている。営農再開までの道のりは遠く、農家の収入確保、就農意欲の維持などの難題も浮かび上がる。
■各集落で意見噴出
海岸線が一変した南相馬市原町区の集落。水田や畑の一部が流され、がれきが残る。「私有財産だもの、簡単に意見はまとまらないよ」。農地集約化に向けて話し合う集落で代表世話人を務める農家男性(62)は、深いため息をつく。
国は昨年5月、土地改良区の同意があれば県が直接、ほ場整備を行うことができる特例措置を設け、手続きを簡素化した。ただ、地権者の合意形成は必要で、各集落は意見の取りまとめに苦慮している。
会合では「先祖代々の土地を元に戻したい」「境界線が不明な状態で、どうやってほ場整備するのか」など意見が噴出。市が掲げる3月末までの意見集約は厳しい情勢だ。
県農村基盤整備課は「ある程度譲歩し合い、集落営農や農業生産法人に向けて意見をまとめるしかない」と糸口を探る。
■再開への道のり
「5、6年もの間、どうやって生計を立てればいいんだ」。南相馬市鹿島区で長年、水稲栽培などを営んできた農家の男性(62)は、厳しい表情で跡形もない土地を見つめた。
農業災害を補償する農業共済制度では、流された家畜や栽培した農作物は対象となるが、栽培前の土地の被害には共済金は出ない。現在は家族の収入とがれき撤去作業の収入でつなぐ。「いつ農業が再開できるのか分からないが、諦めたくはない」と自らを奮い立たせる。
県の工程では、4市町の農地の再整備は26年度から28年度までかかる。しかし、地盤沈下した土地の復元、除塩と並行して行う除染など課題は多く、計画通りに進むか不透明な部分も残る。
■出始めた離農者
津波被害を受けた地域では徐々に離農者が出始めている。ある自治体の担当者は「避難したり、営農再開の見通しが立たない中で、離農する人は今後も増える可能性がある」と分析。農地が復旧しても担い手は足りるのか-と懸念する。
打開策としてJA中央会は効率的な営農を推進することで、担い手不足解消を目指す。県も災害を逆手に大規模農地集約を成し遂げた上で、こうした組織への財政支援を検討している。JAそうまが出資した「アグリサービスそうま」の前田敏郎社長(61)は「ピンチがチャンス。われわれのような組織が担い手の受け皿となり、農地を次世代につなぐ必要がある」と力を込める。
■風評拭えるか
「農地復旧による営農再開と、作ったコメや野菜が売れるかどうかは別の問題として考えなければ」。JA関係者の心配は尽きない。放射線量が低い地域でも、風評被害の影響で農産物直売所は売り上げが激減しているという。相馬市の園芸農家の男性(66)は「栽培方法の見直しなど自助努力に加え、自治体の放射性物質検査をさらに充実し、安全・安心をPRするほかない」と訴える。
【背景】
農林水産省が震災直後の3月末に公表した本県農地の津波被害は沿岸10市町で約5900ヘクタール。このうち相馬、南相馬、新地、広野の4市町はそれぞれ農地全体の約3割が被害を受けた。国は5月に土地改良法の特例措置を設け、区画整理の手続き簡素化、除塩の補助対象化、災害復旧の補助率かさ上げなどを決めた。県はこの制度を活用して市町村とともに農地復旧を目指すが、地元ではいまだにがれき処理が続き、海岸沿いは地盤沈下や排水設備の全壊など被害が大きい。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)