平成23年産米の販売低迷を受け、全農県本部は卸業者への売り渡し価格の1割引きを決めた。現在流通しているのは放射性物質が検出下限値未満のコメだけだ。それでも「苦渋の決断」が流通促進につながる保証はない。消費者の信頼回復は課題だ。
■打開策
売り渡し価格引き下げは、コメの流通低迷の打開策で、倉庫の在庫解消につなげる狙いもある。「農家の収入は減る。しかし、売れないより、安くしてでも買い手を付ける方法を選んだ」。全農県本部の幹部は決断に至った背景を説明する。
伊達市霊山町の農家男性(62)は「農家は作ってなんぼ、売れてなんぼだ。もうけは少なくても買ってもらえるだけましだ」と一定の理解を示す。
一方、厳しい見方も。日本米穀小売商業組合連合会(日米連、本部・東京)の担当者は、県産米の価格引き下げが販売促進に直結するかどうか疑問を投げ掛ける。「関西圏を中心に福島県に対する目は厳しい。価格は1つの判断材料だが、必ずしも売れ行きに結び付くとは限らない。大量購入する外食産業であれば買い手は付くかもしれないが...」と慎重に言葉を選ぶ。
■新基準
県産米の販売回復には、4月から導入される食品衛生法の新基準も足かせになる可能性があるとコメの卸業者は見ている。
一般食品の基準値は現行の1キロ当たり500ベクレルから100ベクレルに引き下げられ、消費者が県産米に向ける目はさらに厳しくなると予想されるためだ。
3歳の幼児を抱える郡山市の会社員女性(30)は「安全・安心を求めれば、セシウムが検出されていないコメを買うしかない」と消費者心理を訴える。福島市の卸業者の幹部も「取り扱いは、セシウム検出ゼロのコメが中心になるだろう」と指摘する。
県農産物流通課の担当者は「『100ベクレル以下は安全』だ、としっかりアピールする責任が国にある」と訴えるが、消費者心理との間にはより厳しい「溝」がありそうだ。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)