東京電力福島第一原発事故を受け、県が実施している子どもの甲状腺検査で、検査結果の通知を受けた保護者の間に波紋が広がっている。約3割の子どもに良性で問題のない5ミリ以下のしこりなどがあった。検査を担当する福島医大は「治療や再検査の必要はない」としたが、保護者らの不安が消えないためだ。同大には「本当に再検査しなくて大丈夫か」などの相談が相次いでいる。同大は不安の広がりを懸念し、安心の説明に一層力を入れる。
■相談相次ぐ
甲状腺検査は浪江、飯舘両町村、川俣町山木屋地区の3765人の子どもに対して先行して行われた。福島医大は昨年12月末と1月下旬の2回に分けて検査結果通知を発送した。このうち1117人は5ミリ以下のしこりや、20ミリ以下の嚢胞(のうほう)=液体の入った袋=が甲状腺に発見されたが、小さいために問題ないとする「A2」の判定を出した。
しこりや嚢胞がなかった2622人の「A1」判定とともに、採血や尿検査などを伴う2次検査の対象から除外した。
ところが、結果の通知が各世帯に届き始めてから、A2判定が届いた子どもの保護者から「再検査をしなくてもいいのか」「専門病院で診てもらいたい」などとの相談が、福島医大の検査事務局に寄せられるようになった。相談件数はこれまで40件近くに上るという。
同大は「しこりの大きさが基準以下で、急激に症状が悪化したり、大きくなることは考えられない。悪性と疑われるケースもなかった」と説明し、冷静な対応を求めている。
「A2の判定の場合、心配がないのでしこりなどについて通知しない選択肢もあった...」。検査を担当する福島医大の鈴木真一教授は打ち明ける。通知しなくても子どもたちには何の問題もなかったと確信している。
しかし、小さなしこりなどがあることが後で分かった場合、保護者が結果に疑問を持ち、検査の精度全体に不信感が広がる恐れがあった。このため、すべての対象者に正確な検査結果を開示することにした。
■正確に開示
「A2」判定の子どもを心配した保護者が別の医療機関で受診させるケースも想定される。だが同大関係者は「不必要な再検査は子どもの負担を重くするだけ。各自の判断でみんなが受診し始めたら、検査制度の意味さえなくなる」と指摘する。
再検査に関する相談が多いことを受け、同大は急きょ、しこりなどが基準よりも小さい場合は再検査の必要がない理由などをホームページに掲載する検討に入った。
■検査の課題
2日に発表された県の平成24年度当初予算で、県民健康管理調査費関連は約70億2000万円に上り、このうち甲状腺検査に約9億円が計上された。
県内の子どもを将来にわたって見守るための甲状腺検査。福島医大は今後、同大以外にも県内外に検査拠点を複数つくって、検査体制を強化する計画だ。
ただし現在、県内で甲状腺の超音波検査に必要な甲状腺内科・外科や、超音波などの知識を持つ専門医は10人足らず。検査技師らを含めて人材育成は急務だ。同大は3月以降、県内各地で医療関係者向けの講習会を開き、知識普及を目指す。独自の認定制度を設け、検査を担当できる医師らを増やし、さらに保護者や子どもの安心に尽くす。
【背景】
甲状腺検査は「県民健康管理調査」の一環で、原発事故発生当時に0~18歳の県内の子ども約36万人が対象。平成23年10月にスタートし、26年3月までに全県で順次、1回目の超音波検査を実施している。福島医大によると、現段階で放射線の影響は考えにくいが、現状を把握して将来的な健康管理に結び付ける。先行して実施した浪江、飯舘両町村、川俣町山木屋地区対象の検査では、悪性が疑われ、直ちに再検査が必要な「C」判定の子どもはいなかった。ある程度大きな良性のしこりなどが見つかった「B」判定の26人は今後、2次検査をする。
-5ミリ以下のしこりや20ミリ以下の嚢胞が見つかった子どもを再検査の対象から外したのはなぜか。
「通常の診療で見つかっても、医師が治療が必要でないと判断して患者に教えていない程度の大きさだ。さらに今回、悪性と思われる例はなかった。レントゲン検査でも、影が写れば、全て対応する訳ではない」
-しこりは大きくなるのか。
「甲状腺の小さなしこりや嚢胞は、生まれつきある子どももいて、成長とともに消えていく場合もある。検査結果で全体の3割で見つかったように、特別に異常なことではない。ゆっくりと育つのが特徴で、だからこそ、現段階で放射線の影響が出ることもあり得ない。小さいうちに慌てて摘出手術をしたり、細胞を取って調べる検査をすれば、子どもの体への負担が重い」
-保護者には再検査を求める声もある。
「超音波機器の性能も良くなり、専門医は画像だけで精度の高い診断ができる。さらに、検査は全国トップレベルの専門医らが超音波検査をした上で、複数で議論して二重チェックしてから判定している。安心してもらいたい」
(カテゴリー:3.11大震災・断面)