市町村が導入を進める「ホールボディーカウンター」の内部被ばく検査で、自治体によって低い線量のレベルで結果にばらつきが出る可能性があり、県の県民健康管理調査に活用できない懸念が出ている。健康に影響はない低い線量の範囲での誤差だが、県民の健康データを幅広く蓄積する上で障害になりかねない。自治体ごとに機器の性能や年式、検査方法が違うことなどが原因で、県は今月中に自治体との協議会を発足させ、対策に乗り出す方針だ。
■信頼性
「本県のように低いレベルで疑われる内部被ばくの検査では、結果に誤差が生じやすくなる」。県や福島医大の関係者は指摘する。ホールボディーカウンターは本来、原発の内部などの事故・災害など、高放射線レベルの内部被ばく検査を想定して製造されている。県民に対する現在の検査では検出下限値に近い放射線量を測定しているのが実情だ。
また、微量な放射線量を測定する機器であるため、周辺環境中にある放射性物質の影響も受けやすい。測定に当たっては難しい調整が求められるという。
二本松市は約10年前に製造された機器を県外の病院から無償譲渡され、昨年11月から検査を始めた。古い機種であることから最初から誤差は避けられなかったという。
市は先月下旬から約1200万円を掛けて部品交換などをし精度を上げた。それでも、最新式の機器と比べれば劣るとみられる。市の担当者は「あくまで健康に影響がある内部被ばくを見つけ出すのが目的だった。一刻も早く検査をしたかったので、古くても提供を受けた」と振り返る。
南相馬市は当初導入した旧式の機器を使って測定した結果に間違いが見つかり、再測定が必要になったケースがあった。現在は最新式の機器を使っているが、以前の機器で検査をした住民からは「新しい機器で測り直してほしい」という声が寄せられている。
さらに、検査や結果の分析の方法でも自治体ごとに差がある。検出下限値は自治体で設定値に開きがあり、同1人物でも検査する自治体によって「検出」「不検出」に分かれる可能性もある。
■人材確保
機器の導入が進む中で、検査に当たる専門家の確保も悩みの種だ。正確な数値の読み取りや住民への説明には、機器に熟知した"プロ"が必要だ。
本宮市は、震災後に県が設けた人材派遣制度を活用し、検査や結果説明に当たる看護師2人を確保した。放射線の専門知識を持つ長崎県の人材だ。市担当者は「そう簡単には見つかるものではない。県の制度がなければ難しかった」と話す。
今月下旬の運用開始を予定している福島市は、医療機関の定年退職者を含む3人をようやく確保したが、運用開始が迫ってやっと見つかった。担当者は「各自治体で検査が始まり、県内全体で放射線技師が慢性的に不足している。これ以上の確保は難しい」と表情を曇らせた。
■精度向上目指す
「現在実施されている検査では信頼性が確保できない自治体もある。検査精度を向上させる必要がある」。県の担当者は、自治体と協議会をつくる意義を強調する。
県が協議会参加を呼び掛けるのは、ホールボディーカウンターを既に運用している4市の他、導入予定のある自治体だ。それぞれに採用している検査方法を検証し、課題の解決を目指す。協議会を通して各自治体に放射線の専門家らを派遣することも検討している。
県は当初、県民健康管理調査にデータ登録するのは、県の検査分のみを想定していた。だが、市町村での検査拡大を受け、データに加えることにした。県関係者は「同じ精度で測定しなければ、情報の共有化ができない」と課題を訴える。
■見逃しはない
福島医大医学部放射線健康管理学講座の大津留晶教授は「検査結果の誤差が問題になっているのは、健康に問題のない低いレベルでの話。健康に影響が出るような内部被ばくを受けている人を見逃す状況にはない」と強調する。
その上で「ある程度の誤差は仕方がないが、日常生活の改善や、長期的な健康管理をするためには、精度の高い検査をする努力が必要」と指摘する。
ホールボディーカウンターに関しては専門的に研究している学会などが存在せず、検査精度を高める議論をする場がない。このため福島医大は関係機関による研究会発足を検討している。大津留教授は「国際的にも通用する水準の検査精度を目指すべきだ」と今後の目標を語った。
【背景】
ホールボディーカウンターは、人体の内部に取り込まれた放射性物質が出す放射線の量を精密に計測し、内部被ばくの程度を全身で調べる装置。県はこの機器を使用し、昨年7月から県民の内部被ばく検査を進めている。子どもや妊婦らを優先させ、計画的避難区域や双葉郡、県北地方などで、1月下旬の時点で約1万4000人を検査した。検査対象の地域は順次、県内全域に拡大させる。今後、福島や郡山、相馬、田村、伊達、桑折、浪江の各市町などでも購入する予定。民間でも導入が広がっている。既に導入した自治体は次の通り。
【県民向けにホールボディーカウンターを運用している県内の自治体】
県:4台(移動式)
いわき市:1台(県有)
二本松市:2台(1台は県有)
本宮市:1台
(カテゴリー:3.11大震災・断面)