東日本大震災アーカイブ

【復興庁業務開始】「心強い」「いまさら」 県民、思い交錯

借り上げ住宅で復興庁発足に関する新聞記事を読む今井さん=10日、福島市

 10日に業務を開始した復興庁。被災住民の間には復興対策のスピードアップに対する期待と、「いまさら何ができるのか」という不信感が交錯している。

■募る疑念
 「震災からもうすぐ1年になるというのに遅過ぎる」。福島市の借り上げ住宅に避難する南相馬市小高区の今井功さん(64)は憤る。震災前は漁師をしていた。1日も早く漁を再開したいが、拠点にしていた浪江町の請戸漁港は東京電力福島第一原発事故で警戒区域の中だ。「慣れない生活を11カ月も送ってきた。組織は震災直後につくるべきだった」と非難する。
 福島市の保育士古関ゆかりさん(49)は「政府は県内の実情を理解していない」と疑念が募る。原発事故後、放射線被ばくによる健康被害への不安で、勤務先の保育所の子ども約10人が自主避難のため退園した。除染が十分に進まず、子どもの屋外活動は控えたままだ。「不安解消のために目に見える対応が必要」と訴える。
 農産物の風評被害も深刻だ。喜多方市山都町のアスパラガス農家高橋正敏さん(59)は「復興庁の発足で、何が変わるか見えてこない」と冷ややか。アスパラガスを例年は1キロ900円で出荷しているが、市内農家の稲わらから放射性物質が検出されてから500円程度に下落した。「風評被害対策まで手が回るのか」
 いわき市の借り上げ住宅で避難生活を送る森博さん(68)は、市内岩間町の自宅兼店舗が津波で流され、高台移転に希望を託す。同町では被災した約90世帯のうち20数世帯が集団での高台移転を望むが、いつになるか分からない。「役所が1つ増えただけでは何も変わらないのでは」と不信感は消えない。

■すがる思い
 川内村の旧緊急時避難準備区域で除染作業に当たる村行政区長会長の建設業高野恒大さん(62)は「復興庁がリーダーシップを取って除染のスピードアップを図ってほしい」と期待する。
 村内の警戒区域は区域見直しで「避難指示解除準備区域」とされる見込みだ。放射線への不安が消えなければ家の修復もできない住民もいる。警戒区域の除染は急務だ。
 会津若松市の飯盛山にあるお土産屋「飯盛分店」は昨年、原発事故の風評被害で大打撃を受けた。売り上げは前年の2割にとどまる月もあった。店員の古川彩子さん(62)は「観光業の復興に向け、明確な指針と対策を」と希望を託す。
 「支所が南相馬市に設けられたのは心強い」と話すのは相馬市仮設住宅組長会議会長の鈴木陽一さん(74)=同市磯部=。これから集団移転などの話が本格化する。住宅再建が具体化してくれば、仮設住宅入居者の不安解消にもつながると見込んでいる。
 新たな組織を不安視する一方で、何とかしてほしいとすがる思いの県民も多い。

■支所にも権限を
 「スピード感ある対応を期待したい」。いわき市は出先機関の市内設置を要望してきただけに、担当者は支所の開所を歓迎する。一方で、時間的な無駄が生まれないよう「(支所に)一定以上の権限を持たせてほしい」と要望した。
 南相馬市の復興事業担当者は市内に支所が開設されたことに満足しながらも、「地域の実態に沿って柔軟に対応してほしい」と注文を付けた。支所が設けられた両市の期待は大きい。職員には期待を裏切らない仕事が求められている。

【背景】
 東日本大震災を受け、菅直人前首相の下で昨年3月下旬に被災地を支援する「復興庁」創設の検討を始めた。政局の混乱などで審議が遅れ、復興庁設置法案は同12月に成立した。復興庁は他府省よりも一段格上に位置付けられており、復興相に他省庁に対する勧告権を与えている。被災自治体からは政府の窓口の一本化や要望への迅速な対応などを求める声が上がっていた。

カテゴリー:3.11大震災・断面