■福島市出身 画家・鴻崎正武さん
福島市出身の画家鴻崎(こうざき)正武さん(39)の海外初の個展が8日から1カ月間、米・ニューヨーク市の画廊「DILLON GALLERY」で開催される。東日本大震災、東京電力福島第一原発事故以降に制作した作品がほとんど。双葉町でスーパーを営んでいた両親が原発事故で避難生活を送るなど、身近で震災や原発事故を見詰めた経験が投影されている。
■8日から初の海外個展 原発事故の現実投影
福島高卒、東京芸大大学院修了。父親の実家がある双葉町は幼いころから何度も訪れていた。いつも身近にあった原発の事故は、自分の根底が揺らぐほどのショックを受けた。両親を山形市の自宅に迎え入れ、原発事故の動向を固唾(かたず)をのんで見守った。
さまざまな動植物を掛け合わせた生き物が登場する独特の作風。震災や原発事故で多くの人の日常生活が壊れてしまう中で、これまで通りに架空の世界の絵を描いていていいのか-。心の中で生まれる葛藤を吹き飛ばす思いで、創作活動に没頭した。ニューヨークの個展開催を1年延長し、作品を仕上げた。
住民の間に広がる不安な感情や、人間として現代文明にどう向き合えばいいのかという疑問を作品にぶつけた。あらためて自分が福島県の人間であることを自覚した。作品には赤べこやこけし、桃など県内にゆかりのある物が登場した。
「古里を一層いとおしく思えるようになった。今の思いをニューヨークでしっかり発信してきたい」
世界のアートシーンの中心に向かおうとする自分に今は迷いはない。
芸大の学部卒業制作の「動物曼荼羅」が学校買い上げ賞を受けた。青木繁記念大賞公募展で大賞に輝くなど、高い評価を受けている。平成21年には東京から山形市に移り、市内の東北芸術工科大の美術科洋画コースで講師を務めている。
(カテゴリー:連載・今を生きる)