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【専門家集団の模索5】危機管理の不備指摘 「学会改革」自省の声

日本原子力学会の年会で意見を交わす研究者。原発事故から1年が過ぎ、検証作業は正念場に入る=19日、福井市

 原子力の専門家とされる技術者にとって聞き慣れない言葉だった。「エリート パニック」。主に災害社会学の分野で使われ、原子力と関わりの深い工学や理学などの系統とは縁の遠い考え方だった。
 福井市で開かれた日本原子力学会「春の年会」最終日の21日、学会の社会環境部会の研究者は東京電力福島第一原発事故に「エリート パニック」を当てはめた研究を発表した。
 エリートとは情報や知識を独占的に持つ首相官邸、経済産業省、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、東京電力などの幹部を指す。ほとんどが難関と言われる大学を卒業し、きらびやかな経歴を誇る。
 これらの人々は、情報や知識を持たない大衆が原発事故でパニックに陥ると勝手に想像した。その一方で、自らが右往左往してパニック状態になり、情報発信などをめぐって混乱した。
 だが、多くの国民は情報が少ない中にあっても冷静に行動し、お互いに助け合い、パニックはほとんど起きなかった...。

■安全性を過信
 「国家的クライシスマネジメント(危機管理態勢)が用意されていなかった。そのため大きな混乱が生じた」。発表を担当した日本原子力研究開発機構(JAEA)広報部主幹の佐田務は、原発事故後の政府の混迷ぶりを分析した。
 事故直後、政府は避難指示を速やかに伝達できず、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による放射性物質の拡散予測を公表しなかった。
 後に政府幹部がいみじくも語った「SPEEDIを公開しなかったのはパニックを恐れたため」との言葉は、「エリート パニック」の様子を如実に示す。
 また、政府の記者会見で「直ちに健康に影響はない」などといった分かりにくい説明が相次ぎ、逆に国民の不安を招いた。
 佐田は、その背景に、重大事故が長引く可能性を「エリート」たちが低く考えていたことや、安全性への過信があったことを挙げた。

■技術偏重
 佐田の発表を聴いた参加者の1人は「原子力学会はあまりにも技術的すぎる。今回の発表内容を報告書にすべきだ」と求めた。
 佐田に続いて発表した東北大名誉教授の北村正晴は「学会が外部とどう連携できるのか。少なくとも原子力の中だけの行動では、状況は悪化する」と訴えた。北村は事故を防げなかった原子力専門家の社会的責任として「安住からの脱却」を呼び掛けた。
 学会は福島第一原発事故の報告書をまとめる作業を開始した。「原子力専門家の集団として、産学官のハブ(軸)となる」。会長の田中知は、原子力ネットワークの中心を目指す考えを強調している。
 原発事故から1年が過ぎ、事故に対する学会の検証作業は正念場を迎える。同時に「原子力ムラ」の一員と指摘されている学会そのものの改革も求められている。(文中敬称略)
 =第6部「専門家集団の模索」は終わります=

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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