金山町の沼沢漁協は31日までに町内の沼沢湖での今季のヒメマスの放流・捕獲を中止することを決めた。県の検査で食品の新基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されたためだ。放流の中断が今後も続けば、ヒメマスを維持できないという。100年以上の歴史を刻んだ県内唯一のヒメマス産地が窮地に立たされている。
県の3月の検査で120ベクレルが検出された。4月からの新基準値適用に伴う県の自粛要請を受け、放流・捕獲を断念した。
例年、北海道から受精卵を仕入れ、年間約12万匹前後を放流してきた。放流に要する経費は約200万円で、漁で用いる刺し網の行使料や釣りの遊漁料で賄ってきた。沼沢湖は東京電力福島第一原発から120キロ以上離れており、鈴木茂組合長(62)は「まさかという思いだ」と肩を落とす。
ヒメマスは川を遡上(そじょう)して産卵する習性がある。湖周辺には適した川がないため、ヒメマスを維持するには放流が必要になる。
「ヒメマスの寿命は約4年。放流を続けないと湖から消えてしまう」と鈴木組合長は危機感を募らせる。
沼沢湖へのヒメマスの放流と捕獲は明治末期に始まった。漁師の高齢化が進み、現在は町内の五十島冨夫さん(78)が一人で刺し網漁をしている。五十島さんは「伝統を絶やしたくない」と、漁の再開を望んでいるが、「それまで元気でいられるか...」と湖を不安げに見詰めた。
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