食品中の放射性セシウムの基準値が1日から厳格化される。県は検査数を増やすなどして安全に万全を期すが、最盛期には人員や検査機器の不足が生じ、県外に頼らざるを得ないなどの課題は残されたままだ。流通後に基準値超の食品が確認されれば、信頼は一気に崩れかねない。県産品の再興を懸けた取り組みは正念場となる。
■同じ轍踏めない
郡山市の県農業総合センターに精度の高いゲルマニウム半導体検出器10台が並ぶ。ブロッコリーなど春野菜の分析が今後本格化する。「漏らさず綿密に検査しなければ消費者の信頼は得られない」と武地誠一分析課長は表情を引き締める。
昨年は暫定基準値(1キロ当たり500ベクレル)超のコメや牛肉が市場に流出し、信頼を失うとともに風評被害を助長した。県は同じ轍(てつ)は踏めないと、野菜の抽出検査を20ヘクタール単位から5ヘクタール単位に狭め、流通野菜への検査は500点から4倍の2000点に増やす。コメは全袋検査し、牛肉も引き続き全頭を調べて検査の網をすり抜けるのを防ぐ考えだ。ただ、センターでの検査は1日200点が限界。処理し切れない分は県外の検査機関に委託せざるを得ない。最盛期の夏、秋は現在の職員24人では対応できず新たな人員確保を迫られる。
検査の精度を高めるには、1回の検査に使う検体量を増やす必要がある。野菜の場合は従来の300グラムが1キロ余りに増えるため、検査に長時間を要し、出荷が滞る懸念もある。農家の協力をどう得るかも大きな課題だ。
■夏までに150台
新基準値は農畜産物、魚介類など多方面に及ぶ。このうち、基幹作物のコメは全袋検査で安全を担保する方針で、大量検査が可能なベルトコンベヤー式検査装置を夏までに150台導入する。
しかし、どこに配備するかなど態勢づくりはこれからだ。市町村や各JA、流通業者らで組織する地域協議会で詳細を決める方針だが、設立時期は決まっていない。JA関係者は「具体的な運用の仕組みがなくては取り組みが進まない」と対策を急ぐよう求める。
■経過措置
牛肉などには9月末まで暫定基準値(1キロ当たり500ベクレル)が適用される。県の担当者は「消費者意識を考えれば、経過措置はあってないようなもの」と厳しく受け止める。県は新基準値導入に合わせ、検査結果を記載した「検査証」を牛肉に付けることを計画する。
牛肉が新基準値を超えた場合、経過措置期間中であっても出荷自粛を要請する方向で検討している。ただ、経過措置により出荷が認められていながら、出荷停止とした場合、損害をどう補償するのか、東京電力の賠償対象になるのかなど解決すべき課題は少なくない。
【背景】
1日からの新基準値では野菜や魚、コメなどの一般食品が1キロ当たり100ベクレル、牛乳・乳製品と飲料水は50ベクレル、10ベクレルに厳格化される。コメ、牛肉などには経過措置がある。県内の魚は100ベクレルを超える魚種が多いが、沿岸漁業は行われておらず、市場には出回っていない。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)