食品の放射性セシウムの基準値が1日から厳格化され、県内農家は安全・安心な農作物を消費者に届ける決意を固める。一方、「新基準をクリアできるのか」「風評被害は払拭(ふっしょく)できるのか」との不安が渦巻く。消費者は引き続き食品に厳しい視線を送る。
■悔しさ忘れず
「自分は安全、安心な野菜を作るだけ」。須賀川市の野菜農家鈴木フサ子さん(61)は作業場でコマツナの出荷準備に追われる。
JAが経営する直売所でコマツナ、ホウレンソウ、レタスなどを販売してきた。昨年、県内で野菜の出荷が制限され、丹精込めた野菜を廃棄した悔しさを忘れたことはない。
現在はJAで定期的に作物を検査し、放射性物質が検出されない状況が続く。「厳しい基準を達成し、消費者の信頼に応える」と決意を新たにする。
二本松市の農業佐藤吉一さん(65)は地元の農家と共同で地域内の水田の除染や放射線管理を進める。今後は放射性物質の吸着剤などをまき、反転耕の作業に入る。「手間が掛かるが、出荷まで気が抜けない。どこよりも安全なコメを作って安心して食べてもらいたい」と意気込んだ。
伊達地方特産のあんぽ柿は昨年、県の要請を受け加工を自粛した。JA伊達みらいあんぽ柿生産部会は3月上旬の総会で、平成24年度の生産再開を決めた。2月末までに樹皮除染を終え、今後は枝を切り落として放射性物質対策に万全を期す。前部会長の清野政孝さん(63)は「新基準は生産者にとってかなり厳しいが、地域農業を守るため頑張るしかない」と言い切った。
■出荷できても...
「今年は出荷できるのか」。平田村の農業阿部ハル子さん(72)は山菜の収穫時期を迎えようとする野山に思いを巡らせた。
阿部さんは毎年、自宅周辺のあぜ道や山で育ったフキノトウ、タラノメ、コシアブラ、セリなどを村内の直売所に出荷してきたが、昨年は放射性物質が心配で出荷を控えた。
これからタラノメなど山に自生する山菜の収穫が始まる。「山は線量が高いと聞いている。出荷できたとしても、客は手に取ってくれるだろうか」
矢祭町南ユズ生産組合が生産したユズから検出された放射性物質はこれまで最大で1キロ当たり27ベクレル。組合長の鈴木藤夫さん(76)は「基準をわずかに下回る農作物と受け取られるかも...。風評被害の拡大が心配」と新基準への懸念を口にした。
福島市でサクランボやモモ、ナシ、リンゴを栽培し、市観光農園協会長を務める片平新一さん(58)は「消費者が問題としているのは、極論すれば放射性物質がゼロかそれ以外かということ。基準値を下げても消費者の気持ちが戻るのはそう簡単でない」と指摘した。
■自信を持って
食品の安全基準が厳格化されることに、生産者からは歓迎の声も出ている。
会津美里町の農業風間明さん(75)は「県産農作物を安心して食べてもらうためには、基準が厳しくなるのは良いこと」と話す。
4月下旬にはホウレンソウなど春野菜が収穫期を迎える。「新しい基準をクリアすることで農家は消費者に対し自信を持って農産物を届けられる」。風評被害払拭への期待を寄せた。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)