南相馬市の警戒区域の再編が16日に迫り、区域内の住民から帰還への喜びの声が上がる一方、住民でなくても自由な出入りが可能になることで防犯上の課題が浮上している。居住制限、避難指示解除準備の両区域とも夜間滞在は認められておらず「無人」となる。同市は先行して再編された田村市、川内村の警戒区域の30倍もの世帯数を抱えており、県警は犯罪抑止に神経をとがらせる。
■窃盗増の懸念
警戒区域となっている南相馬市の世帯数、人口は【表】の通り。帰還困難区域もあるが、出入りが自由になる避難指示解除準備、居住制限両区域に計約4000世帯が住む。住民以外も立ち入ることが可能となることによる空き巣などの窃盗被害増加が懸念材料の1つに挙げられている。
◇南相馬市◇
▽避難指示解除準備区域(3850世帯・12740人)
▽居住制限区域(130世帯・510人)
▽帰還困難区域(1世帯・2人)
「これまでも警戒区域で空き巣の被害は数多くあった」。自宅が居住制限区域になる見通しの70代男性は区域再編後の犯罪増加を懸念し、通行許可証の発行などの防犯対策を市に求めた。
避難指示解除準備区域となる地域でスーパーを開いていた男性(47)は「警戒区域が解除されると、泥棒も地域内に入り放題になるのでは」と指摘した。警戒区域に指定されている間でも店舗のガラスなどが破られる被害を受けたことがある。
店舗や設備などは大切な財産だ。スーパーの事業再開はまだまだ遠いとは思っていても、「どうすれば店を守り抜けるのか」と不安を訴えた。商店を営む40代女性も「24時間誰でも区域内に入れるのはおかしい」と憤った。
避難指示解除準備区域の50代の主婦は「誰もが地域に出入りできる状況は、古里を土足で荒らされるような気持ちにもなる」とため息をついた。
■尽きぬ不安
先行して区域再編された田村市、川内村の住民は一層の防犯対策を求める。
田村市都路町の避難指示解除準備区域で行政区長を務める坪井和博さん(64)は「こまめなパトロールをしてほしい」と訴える。
市は区域内の全住民に通行証を交付したが、警察官が沿道で通行証のない車を全て呼び止めるわけにはいかないという。住民から夜間の治安を不安視する声を踏まえ、施錠の確認や不審者への注意を訴えるチラシを各世帯に配った。
いわき市の仮設住宅に避難している川内村上川内字長網の無職女性(91)は旧緊急時避難準備区域内の自宅が空き巣被害に遭い、小銭や腕時計などの貴金属を盗まれた。「地域の治安は住民が暮らしていることで保たれる部分が多いが、現状では難しい」と不安そうな表情を見せた。
■桁違い
約4000世帯もが暮らす地域の立ち入りが制限されず、夜間は「無人」になることに県警は警戒を強める。「田村と川内に比べ警戒しなければならない対象が桁違いに多い。区域内での犯罪発生は住民の帰還に向けた希望をそいでしまいかねない」。ある県警幹部は再編区域内の犯罪抑止を最重要課題に挙げた。
区域見直しに伴う通行の規制は【図】の通り。これまで同市原町、小高の両区間を結ぶ警戒区域ライン上の検問所3カ所を撤去する。北から小高区に入る道路は6号国道と浪江鹿島、相馬浪江の2県道の3路線に限定し、残りはバリケードを置くが、通行には制限を設けないという。
南相馬市の南側の浪江町とつながる道路は21路線。県警は車両が通行できるルートを6号国道の1本に絞り、新たに検問所を設ける。その他の20路線には国がバリケードを設置する。区域内には国が防犯カメラの設置する予定だ。
■民間との連携
県警は再編区域内の犯罪抑止に向け民間ボランティアなどとの連携を強める方針だ。
南相馬市は34人の住民が再編された区域内のパトロールを行う「地域見守り隊」を新設する。
原町区南部と小高区東部、中央部、西部の4方部に分隊を編成し、県警と連携し全日とも交代制で地域の安全・安心を守る。15日に市役所で発足式を行う。
【背景】
政府は16日に東京電力福島第一原発事故で設定した南相馬市の避難区域を見直し、放射線量に応じて3区域に再編する。田村、川内の両市村は既に1日に移行済み。3区域は「避難指示解除準備」が年間積算線量20ミリシーベルト以下であることが確実であり、住民の早期帰還を目指す地域。「居住制限」が20ミリシーベルトを超える恐れがあり、避難継続を求める地域。「帰還困難」が5年間経過しても20ミリシーベルトを下回らない恐れがあり、現時点で50ミリシーベルトを超える地域となっている。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)