東日本大震災アーカイブ

【「セシウム被害」の廃用牛】1000頭 出荷滞る 繁殖農家の経営圧迫

■集中管理 安全な餌与え市場へ

 東京電力福島第一原発事故から1年が過ぎ、繁殖期を終えた雌牛(廃用牛)約1000頭の出荷が県内で停滞、新しい牛に更新できずに繁殖農家の経営を圧迫している。出荷自粛で牛舎が満杯となり、生計を支える子牛の生産力が落ちているためだ。県と全農県本部は廃用牛を、中通りなどで肉用牛を育てる大規模肥育農家に集め、安全な餌を与える。その上で体内の放射性物質濃度を下げて出荷する「飼い直し」を実施する方針。ただ、体内の濃度によって飼い直し期間が異なるなど集中管理には課題が残る。

■限界

 「1日も早く廃用牛を出荷しないと牛舎が満杯になり、子牛生産のサイクルが止まってしまう」。晴れ間が広がった15日朝、玉川村の繁殖農家、車田幹夫さん(63)は役目を終えた繁殖牛の頭をなでながら胸の内を明かした。
 牛舎には全部で20頭程度いるが、廃用牛となった出荷予定の牛が通常より2頭多い6頭いる。牛舎は手狭となり、新しい繁殖牛を導入できない状態だ。繁殖農家は小規模経営が多く、牛を更新できなければ子牛の生産数が減り、収入減に直結する。
 石川郡畜産農協の9日の子牛の競りでは1頭当たりの平均価格は約43万円だった。1頭が年に1頭産むとすれば、廃用牛6頭で子牛6頭分の販売額約260万円の減収となる。
 廃用牛が「滞留」する実態調査に乗り出した県畜産課によると、県内の繁殖農家約3000戸のうち、約400戸で出荷時期を迎えた約1000頭が滞留している。
 通常、繁殖牛は10歳ごろまでに順次、食肉用に出荷される。しかし、原発事故により昨年7月に政府が牛の出荷停止を指示。8月に解除されたが、県と全農県本部は、安全な配合飼料を食べている肉用牛の食肉処理や血液検査を優先。廃用牛は放射性セシウム濃度の比較的高い野草を食べ続けた上、肉用牛よりも肉質が劣り価格が安いことから後回しにされた。

■打開策

 県と全農県本部は今春、廃用牛出荷のサイクルが停滞し繁殖農家の資金繰りが悪化する事態を懸念して廃用牛の集中管理方式の導入を決めた。牛舎から廃用牛を移動させ、新たな繁殖牛を飼えるようにして経営圧迫を改善するのが狙いだ。まずは牛舎に余裕がない農家から廃用牛を集め、約500頭を中通り地方の大規模肥育農家に移す。県などは受け入れ可能な農家4、5軒と交渉を詰めており、徐々に受け入れ農家と頭数を増やす方針だ。
 受け入れ先の農家では放射性物質の影響のない配合飼料や安全な稲ワラを半年間以上与えて肥育し、「飼い直し」する。県と各JAは排せつや代謝で体内の放射性物質が減少する「生物学的半減期」を観察する。血液検査と食肉処理後の検査を行い、放射性セシウムが牛肉の新基準値(1キロ当たり100ベクレル)を下回っていることを確認した上で出荷する。
 ただ、繁殖牛として飼育された環境が異なることで、集中管理の難しさを懸念する声もある。牛によって食べた野草の放射性物質濃度、食べた期間、年齢はまちまち。県畜産課は農家から聞き取り調査をし、可能な限り環境が似た牛ごとにグループ化して農家に預ける方法を検討している。

【廃用牛】
 繁殖できる期間を過ぎて子牛を産む役目を終えた雌の「繁殖牛」と、乳量が減った「乳用牛」を指す。肉用として育てられた「肥育牛」より肉質は劣り価格は安い。通常、廃用牛は食肉処理後、主に加工食品の原料などに使われる。震災後の廃用牛も食品の新基準値(1キロ当たり100ベクレル)以下であれば従来通り加工用として流通する見通し。

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