東日本大震災アーカイブ

震災乗り越え八段に合格 福島の方木田居合道ク会長・柳沢励一さん

気迫のこもった演技を披露する柳沢さん

 福島市の方木田居合道クラブ会長の柳沢励一さん(62)は居合道最高段位となる八段に合格した。本県の八段は柳沢さんを含めて5人しかおらず、本県からの合格は6年ぶり。柳沢さんは難関突破に「東日本大震災があって一度は諦めかけた。多くの人々の励ましや支えのおかげ」と感謝している。
 震災のため、柳沢さんの経営する衣料店は半壊した。居合道の練習場は一時、避難所になり、練習を再開できたのは昨年4月中旬。約1カ月間のブランクが生じ、昇段審査会の受験を諦めかけた。
 しかし、震災後すぐに全国の居合道仲間から心配や励ましの電話や手紙が相次いだ。「負けられない。仕事も、けいこもしっかりしなくては」
 昨年8月に店の修復を終え、それまで制限せざるを得なかった営業活動に本腰を入れた。地元の商店会長も務めており、東京電力福島第一原発事故による風評被害とも闘ってきた。19歳から始めた居合道は、自ら設立した居合道クラブの仲間とともに、震災前にも増して練習に熱を入れた。
 5月3日、京都市で開かれた居合道の昇段審査会。36歳で七段を取得して以来、通算15回目の八段挑戦だった。柳沢さんは、持ち時間8分間の中で12種類ある形のうち7本を披露、正確さや姿勢、風格などが評価され、全国から167人が挑み、昇段者わずか10人の難関に合格した。震災による困難を乗り越え、手にした栄誉。東北大会で九度優勝、全国大会で二度準優勝している柳沢さんだが、合格の喜びの余り隣の受験者と手を取り合い涙を流した。
 柳沢さんは「震災以降、暗い話題が多い。八段合格が復興に向けた希望の一つになれば、うれしい」と話している。