■国見の仮設住宅に避難 飯舘の熊川ミツイさん 77
村からは1人で避難してきた。子どもは独立し、50年以上連れ添った夫は3年前に亡くなった。慣れない土地での1人暮らしにさみしさを感じていた。日中は趣味の裁縫などをするが、家にこもりがちになってしまう。
「仮設の仲間と野菜を作って、収穫祭でも開けたら楽しそうだな」と思い立った。農家だった両親を手伝った子どものころの記憶が浮かんだ。親や兄弟と和気あいあいと作業した幸せな思い出だった。
国見町から、近所に30アールほどの畑を借りた。農業の経験はほとんどないが、仮設住宅の住民が手伝ってくれる。住民の多くが村で農業をしていた。熊川さんが作業をしていると、自然と人の輪ができる。
花井文雄さん(72)は避難前、コメやインゲン豆などを栽培していた。「もう村では農業ができないと覚悟している。ここで最高においしい野菜を作りたい」と積極的に参加している。
作業中は参加者が話しながら手を動かし、笑い声が絶えない。熊川さんが昔感じた温かい雰囲気がよみがえった。「ピーマンは肉詰め、ナスは田楽、トマトは塩をかけて生で...。収穫が楽しみ。みんなで食べたい」と実りを心待ちにする。
(カテゴリー:連載・今を生きる)