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【安全への問い掛け1】県、独自監視へ手探り 国と法律 立ちはだかる

大熊町に開設された県原子力対策駐在員事務所の開所式(昭和48年6月)。県は県民の安全確保のために独自の取り組みを始めた=「県原子力安全行政10周年記念誌」より

 昨年3月11日、本宮市は東日本大震災で震度6弱の強い揺れに襲われた。4号国道沿いにある医療法人落合会・東北病院は、雪が舞う中で患者を無事に避難させた。停電には非常用電源と発電機で対応した。
 法人の常勤理事を務める落合良2(68)は患者と職員の安全を確かめるため、余震が続く中で病院内を駆け回った。病院の電源復旧を知った落合の脳裏に、ある不安が浮かび上がった。「原発の電源は大丈夫か」
 落合はかつて、県職員として原子力安全対策に携わった。東京電力福島第1、福島第二の各原発には立ち入り調査などで何度も入った。発電所のどこに、どんな設備があるのかをすぐに思い起こせる。「地震が起きれば、原子炉はスクラム(自動停止)するはず。でも、発電所の機器を動かす電源が長時間にわたって失われれば...」

■全電源喪失
 本宮市から直線で約60キロ離れた福島第一原発は、落合の懸念をはるかに上回る過酷な状況に追い込まれていた。
 変電所などから電気を送る外部電源は、地震による設備の損壊などによって全て失われた。それを補う非常用のディーゼル発電機がいったんは動いた。だが、間もなく、津波が押し寄せた。発電機や電源盤が冠水した。6号機を除き、交流電源を用いる全ての冷却機能が働かなくなった。さらに、1、2、3号機は直流電源も失った。
 この結果、原発で最も重要な原子炉を冷やす機能が次々と止まった。地震発生から約4時間が過ぎた3月11日午後7時3分、政府は原子力緊急事態宣言を発令した。

■立地と安全
 40年前の昭和47年6月、県厚生部公害対策課で働いていた落合は、上司から異動の辞令を受けた。「環境保全課・企画調整班」。県の組織改革で新設された生活環境部の部署だった。
 40年前後、高度成長がもたらした公害が社会問題となり、公害対策は県の重要な仕事に加わった。落合は大学で応用化学を学び、43年4月、公害対策の専門職員として県に採用された。河川や海、大気の汚染を調べ、有害物質を扱う工場の立ち入り調査・指導に取り組んだ。
 落合が新しい職場に着任したとき、東京電力福島第一原発1号機は営業運転の開始から1年余りが過ぎていた。既に福島第二原発や、東北電力浪江・小高原発の立地計画も明らかになっていた。県は公害だけではなく、放射性物質を扱う原発立地を受けた県民の安全や健康対策を迫られた。
 県の原子力部門は企画開発部開発課が担当してきた。原発の受け入れや、立地地域の振興策を練ることが中心的な仕事で、立地促進に主眼が置かれた。県の組織改革には、立地対策と安全対策を分離する狙いが込められた。安全対策を担うのが環境保全課・企画調整班だった。
 発足時の企画調整班の職員は8人。総務、農政、水産などの部署から集められた。後に県原子力安全対策課長を務める松井勇(71)もいた。
 落合ら職員は、茨城県東海村の日本原子力研究所で3カ月間に及ぶ研修を命じられた。研究所には最新の知識や技術、人材が集まっていた。原子炉の仕組み、放射線による人体への影響、環境放射能の測定...。初めて触れる世界だった。専門家の指導を受け、放射線を測るサーベイメーターや研究炉を自分で動かした。

■専管事項
 「原発を監視し、県民の安全を守る」。研修を終えた職員は決意を胸に職務に臨んだ。だが、大きな壁が立ちはだかる。法律による国の権限と規制だった。
 原子炉等規制法などの法令によって、原発の設置から運転、管理、廃炉に至るまでの一連の権限は国の専管事項とされている。県や市町村の役割はまだ明確ではなく、地方は原発の安全規制に関わることができなかった。
 その代わりに、県や立地町は電力会社と安全確保協定を結び、発電所周辺の放射線を測ったり、発電所内を立ち入り調査したりした。その原則は今も大きく変わってはいない。そもそも、当時は地方自治体が国の原子力行政に口を挟むという考え方さえ、はばかられた。
 それでも、県は県民の安全確保を目指し、未知の分野に踏みだした。原子力対策駐在員事務所の開設、環境放射能を計測・分析するテレメーターシステムの設置、立地地域の要望を取り入れた安全確保協定の見直し...。手探りの取り組みが続いた。
   ◇    ◇
 国は原発の安全規制やエネルギー政策を一手に握った。トラブルや不祥事が起きても、地元は直接、手を出せず、もどかしさや不信を募らせた。県や立地地域が続けた独自の安全対策や、国策への問い掛けをたどる。(文中敬称略)

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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