■沖縄県警の松井啓喜巡査 26(郡山出身) 祖母がいわき出身 仁尾崇人巡査部長とコンビ
沖縄県警として初めて警戒区域でパトロールする部隊が着任して6日で1週間が過ぎた。郡山市三穂田町出身の松井啓喜巡査(26)=那覇署地域課=は、祖母がいわき市出身の仁尾(にお)崇人巡査部長(32)=豊見城署地域課=とコンビを組み、パトカーで巡回する。古里の現状を目にするたび、警察官の使命感がこみ上げる。
郡山高時代から空手に打ち込んだ。東京の大学を卒業して空手の発祥地である沖縄に移り住み、沖縄県警の警察官となった。
本県への特別派遣部隊には5月に志願した。原発事故で苦しむ県民のニュースを見て故郷のために働きたいとの思いが募っていた。上司から打診を受け「ぜひやらせてください」と手を挙げた。沖縄県警の6人が5月30日から今月14日まで、警戒区域内外の双葉署管内をパトロールしている。
警戒区域内は1年以上たっても、震災の爪痕は残ったままだった。崩れた家が点在し、がれきは山となって積まれていた。子どものころに家族で海水浴に訪れた双葉町は静寂に包まれ、同じ町とは思えなかった。
大熊町では車と野生化したウシが衝突した事故現場に遭遇した。一時帰宅した住民数人が脚を骨折したウシの苦しむ様子を心配そうに見守る。女性は涙を流していた。
「何かできることはありませんか」。声を掛けると、立ち上がらせるのを手伝ってほしいと頼まれた。しかし体の大きなウシは重く、どうすることもできなかった。「ウシは殺処分されるだろう」。そう思うと原発事故の悲惨さを痛感した。
想像以上に住民は元気だとパトロールを通じて感じている。沖縄県では福島県全体が放射性物質に汚染され、危険な場所というイメージを持っている人もいるという。
警戒区域周辺では多くの住民と触れ合い、何度も激励を受けた。皆が親切で、人情味にあふれていた。「沖縄に帰ったら、福島の本当の姿を伝えよう」と心に決めている。
(カテゴリー:連載・今を生きる)