日本オリンピック委員会(JOC)の東日本大震災復興支援プロジェクトで福島、いわき、相馬各市の中学生4人が8月1日、ロンドンの地に立つ。JOCが18日、五輪に派遣する被災地の中学生視察団員を発表した。4人の中には東京電力福島第一原発事故で古里を離れた生徒もおり、それぞれ陸上などの選手として活躍しながら苦難を乗り越えてきた。現地では1週間にわたり競技観戦や交流イベントが予定され、4人は「世界の水準を体感してレベルをアップしたい」と、憧れの舞台に胸を膨らませる。
福島県内から参加するのは、福島市の高橋柚花さん(15)=信陵中3年=と長正憲武君(12)=福島一中1年=、いわき市の日下みどりさん(14)=平一中2年=、相馬市の奥山楓さん(14)=中村一中3年=。このうち、原発事故で高橋さんは大熊町から、日下さんは富岡町からそれぞれ避難した。
「つらい時期を乗り越えられたのはバスケットボールと、仲間のおかげ」。福島市の借り上げ住宅で暮らす高橋さんは原発事故後の日々を振り返る。
大熊中の女子バスケットボール部に所属し、2年前に出場した1年生の大会でチームは相双地区で優勝した。「県大会で活躍しよう」とチームメートと誓っていたが、原発事故で状況が一変した。
昨年3月に家族4人で福島市に避難し、信陵中のバスケットボール部に入った。一緒にボールを追い、汗を流すうちに絆が強まり、古里を離れた寂しさも癒やされた。「世界のトップ選手が全力で競い合う姿をまぶたに焼き付け、決して諦めない姿を見て、もっと強くなりたい」と誓う。
日下さんは現在、いわき市の借り上げ住宅で暮らしている。富岡二小時代は陸上の選手としてグラウンドを走り、今は平一中の剣道部に在籍する。
原発事故さえなければ陸上を続けるつもりだった。「落ち込んでいた気持ちを一新しよう」と剣道への挑戦を決めた。「ロンドンでは、福島の中学生が頑張っている姿を見せたい」と言葉に力を込める。
長正君は福島一中陸上部員で、昨年9月、トライアスロンの全国大会で7位に入賞した。陸上でも県大会などで活躍している。昨年は放射線の影響で練習場所を変更せざるを得なかった。どんな環境でも走り込みはほとんど休まず続けた。「陸上とトライアスロンの競技を観戦し、動きを学びたい」と楽しみに待つ。
奥山さんは「体を動かすのが大好き」と、小学時代は空手、中村一中ではバドミントンに打ち込んできた。「世界最高峰の舞台でアスリートの勝利の瞬間、表情をしっかり見てきたい」と期待する。
視察団派遣事業は震災の影響で競技環境に支障が出たり、家族を亡くしたりした中学生選手に五輪競技を身近で体験する機会を提供する目的で、JOCが国際オリンピック委員会(IOC)と共に企画した。本県と岩手、宮城、茨城の4県から計20人が選ばれた。団長はシドニー五輪銀メダリストの中村真衣さんが務める。
8月1日にロンドン入りし、8日に帰国するまでの間、陸上の女子マラソンや100メートル決勝、ハンマー投げ決勝、トライアスロン、ホッケー日本戦などを観戦する。現地の日本人中学生らと一緒に応援する機会も設ける。
一般人は立ち入り禁止の選手村を訪れ、施設などを見て回ったり、食堂で選手用メニューを味わったりする。世界各国の報道関係者が集まるプレスセンターも見学する。
交流イベントも盛りだくさんで、ロンドンの中学生と一緒に体操や障害物競走を楽しむ。書道体験を企画して日本の文化も紹介する予定。
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