東京電力福島第一原発事故に伴い楢葉町の大半がかかる警戒区域が避難指示解除準備区域に再編され10日で1カ月となる。国は今月中旬から2カ年計画で家屋などを対象にした本格的な除染に入る。住民からの同意書作成も進む。町商工会によると事業所は数社が再開した。一方、楢葉中は新築工事が中断したままで、楢葉北と楢葉南の両小は被災状況の本格調査を控えるなど学校施設の復旧はまだ見通せない。東日本大震災と原発事故から1年6カ月。町再生への道のりは始まったばかりで、町民が除染作業の進展を注視している。
■同意求めて
「除染は帰還のための大切な入り口」。町放射線対策課の青木洋課長(56)は強調する。
町内の家屋は平成24年度から2カ年かけて国が直轄で除染する。登記簿上の所有者の同意が必要で、国は除染の同意を得るための業務を日本補償コンサルタント協会に委託している。
対象は約2900世帯。同協会は8月から所有者に除染方法を説明し家屋の規模などを聞き取り同意書を作成している。町は説明がスムーズに進むよう可能な限り立ち会っている。これまでに同意を得たのは24年度対象の1200世帯のうち半数の約600世帯。
7日、JR木戸駅近くの同町山田岡、会社員三本木清之さん(61)方に同協会の担当者が訪れ、同課の松本重人係長(43)が立ち会った。四世代7人家族だった三本木さんは、いわき市の借り上げアパートに避難。家族はばらばらになった。町内の自宅は雨漏りが激しく室内はカビの臭いがする。自宅前を通るJR常磐線は線路が夏草に覆われかつての面影はない。
除染は24年度に波倉など13行政区、25年度に山田岡など7行政区で計画する。「自宅の除染は(25年度の)いつになるか分からないと説明された。大規模改修が必要で町に戻るかどうか今は判断できない」と三本木さんは戸惑いの表情を見せる。
町は行政区単位で仮置き場を設ける方針で、24年度は13行政区に10カ所、25年度は7行政区に7カ所になる。24年度は調整中の一行政区を除き仮置き場は決まった。
■問い合わせ増える
町内を縦断する6号国道沿いの商店は再編後もシャッターを閉めたままだ。
町商工会によると、町内で事業を再開する意向を示す問い合わせや相談は次第に増えているという。事業所の大半は国の除染開始などを見越していると見られ、町商工会は「今は再出発への準備期間。(除染が本格化する)今月中旬から動きが加速すると思う」と分析する。一方、いわき市など避難先で再出発した事業所などが町内に戻り、再開する時期の把握は難しいという。
同町井出で今月1日にガソリンスタンド「結城楢葉サービスステーション」を再開した結城定一社長(59)は8月10日の再編に合わせて準備を進めた。避難先のいわき市植田町から片道約1時間かけて通勤する。
地域密着の店舗だったが、現在は原発関係者らが立ち寄り利用客は震災前の1割程度。「商売よりも古里復興を考え、生まれ育った楢葉への恩返しをしたい。とにかく今は我慢のときだ」と話し、店を手伝う長女の典子さん(32)らと接客に努める。
■手つかず
楢葉中は老朽化と耐震化に伴い平成22年度から2カ年計画で校舎と体育館の全面的な新築工事が行われていた。
昨年3月の震災は新築工事の真っただ中で、校舎の倒壊は免れたが校舎内は大きく被災した。工事のための足組が大きくゆがんだ。
町教委は早急な工事再開は無理と判断し最終年度の23年度については予算化せずいったん、清算処理した。将来的な学校再開に向け文部科学省には新築工事の「事業継続」を報告した。
今後、工事再開の見通しがたった時点で文科省に再申請する。町は25年度中の工事再開を目指しているが、国の除染による放射線量の低減や財源確保さらに生徒数に見合った学校規模など課題は多く時期は不透明だ。
楢葉北小は震災前から建て替えが計画され23年度に基本設計を策定し24年度に着工予定だった。楢葉南小は比較的被災が少なかったとされる。
町教委には東京都の復旧・復興支援として任期付き技術系職員1人が18日、着任する。1級建築士の資格を持ち小中学校の被災状況や耐震化の確認などに従事する。
南隣の広野町は8月の2学期から小中学校が町内で再開した。楢葉町教委は「町の存続に小中学校は欠かせない。広野町を参考にしながら学校再開の方向性を探りたい」と話す。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)