東京電力福島第一原発事故の避難自治体が町外にコミュニティーをつくる「仮の町」構想は、いまだ具体像が見えないままだ。受け入れ自治体として候補に挙がっているいわき市の渡辺敬夫市長に課題などを聞いた。
-「仮の町」構想に対する基本的な考え方は。
「双葉郡とは歴史的、文化的なつながりがあり、交流が深く、気候もいわき市に似ている。原発事故の影響で居住が困難になっている地域がある以上、いわきが支えていくのが本来の姿と考えている。ただ、本市の将来の都市計画を見据えた場合、1カ所集中型の整備をするのではなく、分散型での災害公営住宅整備が望ましい。集中型にした場合、帰還後にそこが『廃虚』のような状態になることも懸念される」
-受け入れに当たっての課題は。
「本市は東日本大震災による家屋などの被害数が仙台市に次ぐ被災地だ。市長としての最大の責務として、まずは地元の復旧復興を1日も早く実現しなければならない。その中で双葉郡を支援していく形になるが、双葉郡の方々にも、『いわきも大きな被災地の1つ』という現状を理解してもらう必要がある。また、双葉郡の住民がいわき市に住むことになった場合、住民票の位置付けをどうするのかといった行政上の問題も大きい。多くの被災者を受け入れることで、医療・福祉施設が不足してしまうという課題もある。ただ、(仮の町の)規模や概要が見えないため、想定できない部分も多い」
-課題克服のために何が必要か。
「避難自治体と受け入れ自治体による協議の場を設け、解決していくしかないと考えている。まだ議論は始まっていないのが現状だ。避難自治体の意向だけで進めるのではなく、受け入れ自治体の事情も考慮しながら、最善の方法を見いだしていくことが必要になる。双葉郡の方々が住む災害公営住宅が閉鎖的なコミュニティーになってしまった場合、市民との感情面での摩擦も懸念される。市民との交流を推進し、行事などを一緒に実施するような形が理想的だ」
-「仮の町」構想の実現に向けて国、県に求められることは。
「(町外コミュニティーとなる)災害公営住宅の建設主体である県には、双方の話を聞きながら、問題が起きないように調整してほしい。課題で挙げた住民票、医療・福祉の問題などについては原発避難者特例法で扱いが明確にされていない。それをどうしていくか、国がスピード感を持って解決に向けて取り組まなければならない。市としても国との協議の場で、しっかり要望し、結論を出していきたい」
※わたなべ たかお
いわき市出身。湯本高、日大法学部卒。北日本自転車競技会勤務後、市議2期を経て平成3年4月、県議に初当選した。県議会議長、自民党県連の政調会長、幹事長、副会長などを歴任。21年9月、いわき市長に初当選。66歳。
(カテゴリー:震災から1年6カ月 )