東京電力福島第一原発事故による避難区域再編で、避難指示解除時期をめぐり避難自治体と国との調整が難航している。富岡、大熊、浪江3町は原発事故から6年後の平成29年3月11日まで帰還しない方針または意向だ。6年が経過すれば、避難区域の区分にかかわらず、不動産などの財物賠償が全損扱いとなり、住民の一律賠償が実現するためだが、住民の早期帰還を目標にしている国は「賠償ありきではない」と困惑する。住民も賠償と1日も早い帰郷とのはざまで揺れている。
■平行線
富岡町は7月、原発事故から6年後の平成29年3月11日まで帰還しない方針を決めた。東電が公表した土地・建物などの財物賠償基準では、原発事故から6年が経過すれば、全損扱いとなり、住民の一律賠償が実現できると判断したからだ。
政府案に基づき放射線量に応じて避難区域を再編した場合、同町は5年間は帰還できない帰還困難、早期帰還が前提の居住制限と避難指示解除準備の3区域に分けられる。住宅が集中する夜の森地区は帰還困難、居住制限の2区域に分かれる見通しだ。町職員は「道路を隔てて賠償額が大きく異なる事態が想定される。一律賠償にしないと、住民間で不公平感が生じてしまう」と説明する。
しかし、町内には居住制限区域と避難指示解除準備区域になる地域も少なくない。国の原子力災害対策本部は「どうやれば早く帰還できるかを議論し、避難指示の解除時期が決まった上で、賠償を決めるのが筋。賠償が先ではない」(原子力被災者生活支援チーム)と強調。他の市町村との公平性などを理由に町の方針に難色を示している。
一方、遠藤勝也町長は9月定例議会で、一律賠償が認められない限り、災害廃棄物の町内での処分など、国からの要請を現時点では受け入れないと表明。国との調整は不透明さを増している。
■生活困難
大熊町も6年間は帰還しない方針を決めているが、富岡町とは少し事情が異なる。政府案では帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の3区域に再編される見通しだが、町の人口の95%が住む地域が帰還困難区域になる見通しだからだ。
町の担当者は「仮に5%の住民が帰還したとしても、実質的に生活するのは難しいだろう。結果的に解除時期は同じにならざるを得ない」とみている。
浪江町の馬場有町長も「生活ができるようになるには5、6年はかかる」との見方を示す。除染やインフラ復旧に時間がかかるためだ。双葉町も町内全域を帰還困難区域とするよう国に要望している。「除染もインフラの復旧も進んでいないのに、どうしろというのか。早期帰還を促すなら、国が生活環境を整備するのが先だ」。双葉郡の町村関係者に不満がくすぶる。
【背景】
避難区域を抱える11市町村のうち、これまでに川内、田村、南相馬、飯舘、楢葉の5市町村が警戒区域または計画的避難区域の再編を終えた。「避難指示解除準備区域」(年間積算線量20ミリシーベルト以下)は子どもの生活圏の除染やインフラ復旧、事業所の再開、雇用確保などの対策を進める。「居住制限区域」(同20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下)は除染、インフラ復旧などを急ぐ。「帰還困難区域」(同50ミリシーベルト超)は、少なくとも5年間は居住を制限することを原則とする。土地・建物などの財物賠償では、「帰還困難区域」は全損扱いとする。他2区域は事故後から避難指示解除までの年数で賠償額が変わり、事故後6年で全損扱いとなる。解除時期は市町村の決定を踏まえ、政府が決める。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)