東日本大震災アーカイブ

固定資産課税明細書送付へ 東電受け付け遅れ 避難区域市町村 財物賠償越年確実

 東京電力は7月、福島第一原発事故による避難区域がある市町村の土地建物などの不動産(財物)賠償基準を示した。しかし、東電が賠償額を算出する上で必要と主張してきた固定資産税台帳のデータ閲覧は、個人情報保護法で東電が閲覧することができず調整は難航した。双葉郡の各町村は固定資産税課税明細書を住民に二部送付する方針を決めたが、膨大な事務作業で送付時期も見通せないなど賠償の請求受け付けは、越年が確実となっている。

 東電が示した財物の賠償基準によると、宅地は固定資産税評価額に係数(1・43)を掛けて算出、建物は事故前の固定資産税評価額と築年数に応じて算定する方法の他、平均新築単価による算定方法など三つの方法から選べるとしている。

 市町村が持つ固定資産税台帳のデータには土地・建物の地目、面積、評価額、課税標準額などが記されている。データを東電が入手できれば、賠償基準の計算式に基づきコンピューターで一気に額を算定することができ、避難者の生活再建に不可欠な財物賠償が進展する。しかし、市町村側は「固定資産税台帳は『個人情報の固まり』。所有者の同意が必要」との見解を示し、東電と市町村の賠償に向けた調整は難航していた。

 双葉郡の各町村は3日、郡山市で開かれた会議の中で固定資産税課税明細書を各町村から住民に二部送付することを決めた。住民は一部を控えとし、一部を東電に送る。東電は明細書を基に賠償額を算出し、請求書を送ることになる。明細書には賠償額を算定する情報が記載されているが、町村からの住民への送付手続き、住民から東電への賠償請求などの作業が新たに発生することになり、賠償支払いは、東電が固定資産台帳を直接閲覧するより、大きく遅れるという。

 住民への明細書の発送時期は各町村で異なる予定。発送時期などの詳細は早急に八町村の実務担当者会議を開いて決めるという。

 県内外に散らばっている住民に明細書を発送するに当たって、市町村に膨大な事務処理作業が生まれることを懸念する声もある。財物賠償の対象は双葉郡などの最大約6万4千件に上り、東日本大震災と原発事故以降、増大した業務の処理に追われている市町村の職員にさらに負担を担う余力はなく、態勢強化が必須となっている。

 また、財物賠償の請求受け付け開始には避難区域の再編が条件となっている。対象の11市町村のうち、年内に再編が終わるのは六市町村だ。残り五町村は再編の時期が決まっておらず、生活再建を目指す住民たちは早期の再編を望んでいる。

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