2日に広野町で発生した山林火災は、避難した住民の帰還が進んでいない地域の防災態勢再構築に向けた課題を浮き彫りにした。双葉郡8町村の団員数は東日本大震災前と大きく変わっていないが、県内外に避難しており活動できる団員は限られる。一方、双葉郡の避難町村の区域再編が今春相次ぎ、日中を中心に一時帰宅が増えることで火災発生の危険性は高まると懸念される。県は平成25年度から実態を把握するとともに支援策を検討するとしているが、速やかな対応が迫られそうだ。
■新たな敵
「人家火災は何とか対応できる。心配なのは山林火災だ」。町村の担当者の多くが口をそろえる。
東京電力福島第一原発事故で飛散した放射性物質は県土の7割を占める山林に降り注いだ。森林除染はほとんど進んでおらず、大規模な山林火災が起これば、大量の放射性物質が現場に舞い散ることになる。
ある町村の担当者は、防護服や防護マスクの準備を急ぐ必要を指摘する。「震災前と同じようには活動できない。どのような状況なら消火活動が認められるのか基準をつくってほしい。不要なトラブルが起きる可能性は否定できない」と強調する。
■分散
双葉郡8町村の団員数の推移を見ると、震災前の22年度は1828人。24年度は1767人で61人の減にとどまっている。
だが、川内村の担当者は「団員130人のうち活動できるのは50~60人ではないか。中には団員が1人だけの分団もある」と打ち明ける。団員が県内外に避難しており、火災が発生してもすぐに戻ることは難しいためだ。大熊町も昨年の秋季検閲式に参加したのは団員約180人の半分程度だったという。
楢葉町消防団は先ごろ、約230人の団員にアンケートを行った。「戻って活動する」としたのは60%以上に上った。しかし、柴田浩光団長(66)は不安が消えない。「実際にはどの程度になるか...。少なければ少ないなりの活動を考えるしかない」
■願い
人員が減っているのは双葉地方広域消防本部も同じだ。震災前に125人いた職員は現在110人。今春には定年退職や早期退職でさらに8人が減る。震災前に比べれば20人以上の大幅減となる。
8人を新規採用する予定だが、半年間は県消防学校での訓練で不在。全国から支援職員の派遣を受ける方向で調整している。
また、浪江、富岡両消防署は双葉郡南部の楢葉、川内両町村に機能を置いており、郡北部の警戒には限界がある。実際、昨年7月の日中、浪江町で空き家火災があったが、偶然町内をパトロール中だったため素早く対応できた。担当者は「あれが夜間なら被害はもっと大きかったかもしれない」と振り返りながら「われわれだけでは限界がある」と訴える。
■支援
こうした状況を踏まえ、県は25年度、双葉郡の複数町村をモデル地区に消防団の実態調査に入る。
どの程度の団員に復帰する意思があるのか、装備品はどの程度機能するのかなどアンケートを行う。その上で課題を明らかにする。
消防保安課は「地域の安全に消防団は必要不可欠。なるべく早い時期に必要な支援策をまとめ、26年度予算編成での対応を検討したい」としている。
【背景】
双葉地方の区域再編は各町村で進んでいる。富岡町が3月末まで、浪江町は4月1日の再編を目指しているほか、葛尾村は3月下旬の再編を見込んでいる。双葉町は今春にも再編する方針。楢葉町、川内村、大熊町は既に再編を終えている。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)