「海の日」の15日、いわき市の四倉、勿来の両海水浴場で海開きが行われ、砂浜に笑顔があふれた。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後に再開したのは、市内の9海水浴場のうち、昨年からの勿来に続き四倉が2カ所目。ともに多くの家族連れが訪れ、夏の日差しを受け、水しぶきを上げた。四倉海水浴場周辺では、道の駅よつくら港、太平洋健康センターいわき蟹洗温泉が復興に向けた歩みを進めており、相乗効果で、いわきの観光再生を後押しする。
浜風が吹き抜ける四倉海水浴場。サンシャインガイドいわきの箱崎幸永さん(23)が3年ぶりの海開きを宣言した。多くの家族連れや若者が水を掛け合ったり、波に揺られたりして夏の1日を楽しんだ。この日の入り込み客は、1900人(市発表)だった。
同市平の電気工事士小野寺淳平さん(31)は「子どもと初めて海に来た。(震災と原発事故から)2年以上がたち安全面は心配していない」とすがすがしい表情。長男明廉(あれん)君(6つ)と次男神明(かむあ)ちゃん(4つ)は「海は楽しい」と砂遊びに笑顔を見せた。
海水浴場安全対策実行委員会の長谷川直恵委員長(82)は、にぎわいを取り戻した浜辺に目を細めた。
今でも「3・11」の光景が頭を離れない。「2年4カ月前、真っ黒な大きな波に町がのみ込まれた」。多くの住民が犠牲になり、次々と家屋が倒壊した。海を目の前にすると複雑な思いがよぎるが、「いわきの良さを、たくさん持ち帰ってもらえるよう安全対策に万全を期す」と誓った。
実行委は8月18日までの35日の期間中、平日は4人、入り込み客の増える週末や祝日は6人の態勢で海水浴客の安全を守る。再開を機に新たな避難路も設定した。津波の懸念がある際は、海から約400メートル離れた6号国道沿いの駐車場に海水浴客を集め、その後約1キロ先の四倉高に誘導することにした。
「毎時0・05マイクロシーベルト」。浜辺を見渡せる場所に設置された監視塔には、定期的に測定した空間放射線量が表示され、海水浴客に「安心」を届けた。
市は毎日2回、放射線量を測定する。さらに海水のモニタリングを期間中、4度行う予定。13日の検査では放射性セシウムは検出されなかったという。渡辺敬夫市長は「安全対策を万全にして(市内の)海水浴場を一つ一つ再開させることが、いわき復興の歩みになる」と式典あいさつで強調した。
◇ ◇
勿来海水浴場の15日の入り込み客は1800人(市発表)だった。震災と原発事故前の平成22年の海水浴客総数は四倉が10万人、勿来が18万人となっており、市は今年の目標を四倉5万人、勿来9万人と設定した。
市によると四倉と勿来以外の7つの海水浴場は復旧工事が完了していないため、再開時期は未定だという。
■道の駅よつくら港いわき蟹洗温泉 相乗効果に期待
四倉海水浴場の入り口付近にある「道の駅よつくら港」は、観光客に加え海水浴客らで終日にぎわった。
白土健二駅長(50)によると、昨年8月のリニューアルオープン以降、徐々に県外からの観光客が増えているという。「まだまだ復興の途中だと思う。(海水浴場などの)観光拠点が互いに支え合い、もっと元気ないわきを発信したい」と、復活を遂げた海水浴場の集客力に期待した。
同施設は震災に伴う津波で大きな被害を受けた。平屋だったが、震災を教訓に2階建てに建て替えた。
道の駅よつくら港と同様に津波で被災し休業が続いた「いわき蟹洗温泉」。16日午前10時、約2年4カ月ぶりにプレオープンする。四倉海水浴場から1キロほどの太平洋に面する風光明媚(めいび)な施設で、震災前は1日最大1500人が利用する施設だった。
当面は日帰り中心の営業とし、今月末にも本格稼働させるという。一足早く再開した四倉海水浴場に目を向け、木村秀史支配人(53)は「四倉に人の流れが戻ってくることに期待したい」と話す。来年には地元商工会などと連携し町内の周遊バス運行を検討している。
()