東日本大震災アーカイブ

汚染水から海守れ 流出歯止め策 急務 福島第一原発事故 1日300トン地下→港湾

 廃炉作業の続く東京電力福島第一原発から、放射性物質を含む汚染水が海に流出していることが分かり、対策が喫緊の課題となっている。政府は1日約300トンが流れ出ていると試算、原子炉建屋周辺への「凍土遮水壁」整備に国費を投入する方針を明らかにした。一方、東電は今月中に、漏えい箇所とみられる敷地地下のトレンチ(電源ケーブルなどがある地下道)から汚染水の抜き取りを始める予定だ。しかし、現場周辺は放射線量が高く作業の難航が予想される。汚染水の問題を受け、いわき市漁協や相馬双葉漁協はそれぞれ、9月に予定していた試験操業を延期する方針を固めた。観光業界や農家は新たな風評被害の発生を懸念するなど、影響は多方面に広がっている。

 経済産業省と東京電力は、汚染水の流出防止に向け早急に取り組む緊急対策と、今後1、2年で実施する抜本対策を打ち出している。


<緊急対策> ■トレンチ水抜き
 福島第一原発事故直後に流れ込んだ極めて高濃度の汚染水が、砂利を敷き詰めた底部の「砕石部」から漏れ出しているとみられる。抜き取りを始めるのは、1リットル当たり23億5000万ベクレルのセシウムが検出されている部分で、水抜き後、9月までに充填(じゅうてん)剤で内部をふさぐ予定だ。

 別のトレンチでは、浄化装置を新たに設ける。内部にたまった汚染水の放射性物質濃度を下げ、タービン建屋の接続部を凍結によって遮断する。タービン建屋への逆流を防ぎ、平成26年度から抜き取りを始める方針。

 ただ、現場周辺の線量は高く、作業員の安全確保が大きな課題となる。


■土の壁
 薬剤で地盤を改良する「土の壁」作りを1、2号機タービン建屋海側で進めている。ただ、護岸部分では工事中に地下水がせき止められたことにより水位が上昇した。あふれ出る恐れがあるため、応急的な対応として集水升(しゅうすいます)を掘り水のくみ上げを開始した。

 護岸部分は完成したが、他の場所は10月中の完成を目指す。地表をアスファルトで覆い、雨水の染み込みによる地下水の増加を防ぐ。


■地下水バイパス
 原子炉建屋に入る前の汚染されていない地下水を山側の井戸でくみ上げ、海に流す「地下水バイパス」を計画している。これによって、汚染水を1日当たり約100トン減らすことができるという。

 茂木敏充経済産業相は8日、政府の汚染水処理対策委員会の席上、地下水バイパスや、建屋周辺でくみ上げた基準値以下の地下水の海洋放出について対策の進め方を検討するよう求めた。

 ただ、県内の漁業関係者は風評被害の拡大を懸念しており、同意は得られていない。


<抜本対策> ■凍土遮水壁
 経済産業省は原子炉建屋周辺の土を凍らせ、地下水流入を防ぐ「凍土遮水壁」整備の関連費用を、26年度予算の概算要求に盛り込む方向で検討している。

 1〜4号機の周囲約1・4キロを囲むように、一定間隔で地中に管を設置する。冷却材を循環させて地盤を凍らせる。経産省によると、工事費は300億〜400億円。トンネル工事などで用いられる工法だが、長期間使われた例はない。


■海側遮水壁
 港湾内で水の流れを遮断する。護岸から約2メートルの湾内で工事を実施している。

 直径1・1〜1・2メートル、長さ20メートルのくいを海に打ち込み、つなぎ目をゴムなどで埋めて汚染水の流出を抑える。26年に完成させる予定だ。


■地下水くみ上げ
 1〜4号機建屋周辺には原発事故前から、地下水くみ上げ用のサブドレン(井戸)が約50本ある。27年度下期ごろから、1日850トンの水のくみ上げを計画している。

 現在、サブドレンには放射性物質を含むがれきが混入しているため使用されていない。


■1日300トン地下→港湾 政府試算 東電、情報共有不十分で公表遅れ
 汚染水流出は、福島第一原発海側の観測用井戸や港湾内の海水から高濃度の放射性物質が検出されたことがきっかけとなり判明した。

 3つの観測用井戸のうち、1号機取水口と2号機取水口の間の井戸で5月24日に採取した水から、法定基準の約30倍に当たる1リットル当たり1000ベクレルのストロンチウムと、約8倍に当たる50万ベクレルのトリチウムが検出された。

 そのため、東電は追加の観測用井戸を6月以降、9つ掘削した。新たに掘った井戸から、ベータ線を出す放射性物質が87万ベクレル検出されるなど高濃度放射性物質の検出が相次いだ。護岸に近い海水からも検出され、原子力規制委員会(田中俊一委員長・福島市出身)は海洋流出の可能性が高いとの見解を示した。だが、東電は推移を注視するとして、流出を認めなかった。

 東電は7月22日、一転して汚染水流出を認めた。井戸の水位が潮位の高さや降雨に連動していることが確認され、汚染水が敷地内と海で行き来していると説明した。潮位や水位の変化を扱うデータは社内の各担当部署が管理していた。データを突き合わせたところ、18日になって潮位と水位の変化に連動性が確認されたという。しかし、公表は4日後だった。

 社内の情報共有が不十分だった上、公表が遅れたとして、広瀬直己社長を含め幹部5人が減給などの処分を受けた。

 政府の試算によると、福島第一原発1〜4号機周辺では1日約1000トンの地下水の流れがあり、このうち約400トンが原子炉建屋地下などに流入。残り約600トンのうち約300トンは建屋地下とつながるトレンチにたまっている高濃度の汚染水と混ざって汚染され、海に流出している。残る約300トンは汚染されず海に流れ込んでいる。

カテゴリー:震災から2年5カ月