東日本大震災

「あなたを忘れない」アーカイブ

  • Check

念願の美容院開業 野馬追での夫の活躍楽しみに

■南相馬市原町区萱浜 星さとみさん(43)

 さとみさんは、震災当日、南相馬市原町区の自宅に開業した美容院で常連客を見送り、店じまいの準備をしていた。大きな揺れの後、双葉町の建設現場で働いていた夫の秀正さん(45)から携帯電話に安否を気遣うメールが届いた。家の中の被害や、長女の幸栄紀(さえき)さん(10)がまだ原町区の大甕(おおみか)小にいることなどを返信した。その後、津波は海岸から800メートルほど西側にあった自宅兼店舗を襲った。さとみさんは今も見つかっていない。
 飯舘村長泥で生まれ育ち、飯樋中を卒業後、すぐに美容師の道を選んだ。相双地方各地の美容院に勤め、腕を磨いた。建設業の秀正さんと出会い、平成12年11月に結婚。1人娘の幸栄紀さんを育てながら、7年後の11月、自宅で念願の美容院を始めた。さとみさんの明るい人柄と腕前を慕い、遠くからもお客が足を運んだ。
 地域を代表する祭り「相馬野馬追」に毎年騎馬武者として出場する秀正さんの活躍を楽しみにしていた。祭りを迎えると、自宅にごちそうを用意し、原町区の雲雀ケ原祭場地に出陣する秀正さんを送り出した。祭場地では本陣山にある羊腸(ようちょう)の坂の近くに立ち、神旗争奪戦で御神旗を勝ち取った夫が駆け上がってくる姿を心待ちにしていた。
 地震の後、秀正さんと幸栄紀さんは自宅周辺で行方が分からないさとみさんを捜し始めた。東京電力福島第一原発事故の発生で捜索の中断を余儀なくされ、知人のいる埼玉県に避難した。原発事故から1週間後、秀正さんは南相馬市に戻り、知人宅に泊まりながら、さとみさんの手掛かりを捜した。基礎だけが残った自宅跡で、さとみさんが仕事で愛用していたハサミを見つけた。唯一の形見になっている。
 23年4月には家族で初めて東京ディズニーランドに遊びに行くはずだった。同じ年、夫婦で婚姻届を出した記念日の11月3日に秀正さんはさとみさんの死亡届を役所に提出した。
 秀正さんと、埼玉県から戻った幸栄紀さんは現在、原町区で見つけた新たな家で生活している。秀正さんが料理や洗濯などの家事をこなす。幸栄紀さんは原町三小の5年生になった。「さとみだったらどうするか」。秀正さんは年頃の娘に声を掛ける時、心の中で考えてから接している。11月には3回忌の法要を行う予定だ。「2年半になるが、さとみがどこかにいるかもしれないと思ってしまう。悲しみを受け入れられる日がいつか来るのだろうか」。さとみさんの面影を見詰め続けている。

カテゴリー:あなたを忘れない

「あなたを忘れない」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧