東日本大震災アーカイブ

住民帰還へ大きな壁 再編完了の11市町村 「買い物など不便」「希望の職種ない」

一昨年9月に緊急時避難準備区域が解除された広野町のJR広野駅周辺。休日にもかかわらず、人通りは依然として少ない=7日正午

 東京電力福島第一原発事故により、11市町村に設定された警戒、計画的避難両区域の再編が完了した。ただ、除染や社会基盤の復旧など住民帰還に向け、克服しなければならない課題は多い。今も約14万7千人が県内外に避難し、3万人余りは仮設住宅で不便な暮らしを強いられている。長引く避難生活のストレスなどで命を落とす「原発事故関連死」も増え続けている。

 原発事故による避難区域の再編が完了し、各市町村は今後、指定解除を目指すことになる。ただ、「指定解除イコール住民帰還」という図式が単純に成り立つわけではない。除染や生活基盤の回復の遅れ、働く場の減少などが大きな壁として立ちはだかる。

 指定が解除されても住民帰還が必ずしも進まないケースは、既に解除されている旧緊急時避難準備区域の事例が挙げられる。平成23年9月、福島第一原発から半径20〜30キロ圏内の5市町村に設定された同区域が解除された。特に、広範囲が同区域だった広野町、川内村は指定解除による古里の再生が期待されたが、かつての活気は戻っていない。

 「生活が不便なままでは、住民はなかなか戻ってくれない」。広野町の担当職員の一人は、避難指示解除後も住民帰還が進まない現状を憂える。東日本大震災前の同町在住の人口は約5200人だったが、今年7月末現在は約1100人足らずだ。

 同町は放射線量が比較的低く、道路や上下水道など社会基盤は復旧している。ただ、日常の生活環境はまだ復興途上だ。商業施設は8割近くが再開したが、スーパーや商店の多くは週1回や昼間のみの営業だ。不便を感じ、帰還に二の足を踏む住民が多い。

 同様の悩みは川内村も抱える。今年4月の村在住の人口は震災前の約2800人に対し、約500人と約18%にとどまる。要因の一つに、生活圏の一部だった富岡町などが避難区域となり、生活に不便を強いられることがある。震災前は、買い物や医療で深い結び付きがあった。住民の一人は「今、大きな病院で診察を受けるには小野町まで行かなければならず、時間がかかる」と肩を落とす。

 帰村を促すには、働く場の確保も課題だ。村は企業誘致を進めているが、「希望の職種がないなど、住民と企業との間でミスマッチも少なくない」(村職員)という。若い世代の場合、避難先の郡山市などで新たな仕事を見つけたり、子どもが新しい学校生活になじんだりして、以前の生活には戻れないケースもある。住宅周辺の森林の除染が進まないことも背景にある。

 早期の住民帰還を目指す避難指示解除準備区域。同区域が大半を占める楢葉町は、26年春に避難区域解除の目標時期を判断する。社会基盤はほぼ復旧し、住宅除染は25年度中に終える予定だ。ただ、医療機関は再開していない。事業再開したのはガソリンスタンドやコンビニなど一部にとどまる。町は「現時点では、いつ避難区域を解除できるかは見通せない」とする。

カテゴリー:震災から2年6カ月