東日本大震災アーカイブ

漁業再開 また暗礁に 怒りこらえ前向く 明神丸船主・船長 高橋通さん(相馬)

相馬双葉漁協の組合員向け説明会で、東電に質問する高橋さん

 「福島の漁業を守り続けるため、俺たちは前を向いていくしかない」。相馬市の明神丸船主・船長の高橋通さん(58)は試験操業中断を余儀なくされた悔しさをにじませながらも言葉に力を込めた。

 原発敷地内の地下水をくみ上げ海に流す地下水バイパス計画や汚染水問題対策に関する国、東京電力の説明会では毎回、実効的な対策を求めている。「ようやく国は腰を上げたが、原発事故収束に対する『不安の悪循環』を払拭(ふっしょく)するため、講じるべき対策はまだまだあるはずだ」。長男卓己さん(29)ら次世代のため、先頭に立って漁業者の怒りを代弁する。

 漁師歴40年以上のベテラン。いわき市小名浜漁港に係留していた底引き漁船を津波で失った。船を再建させ、昨年6月からの試験操業に参加している。魚種や漁場が限定された試験操業は、漁師が生活していくための「漁」には程遠い。しかし、本格操業再開のためには地道に実績を重ねていくしかない。

 「俺たちがしっかりと道筋をつくってやらなければ。国や東電にはスピード感を持って対応してほしい」と注文を付けた。

 東京電力福島第一原発の廃炉作業は地上タンクからの高濃度汚染水漏れなど依然、トラブル続きだ。1〜3号機の熔融燃料の状態はつかめておらず、廃炉工程が計画通りに進むかは見通せない。高い放射線量が事故収束作業を阻む。汚染水の海洋流出も判明し、本県漁業復活のため試験操業を実施してきた相馬双葉漁協、今月から開始予定だったいわき市漁協とも、試験操業の見送りに追い込まれた。漁業者からは海水モニタリングの結果などを踏まえ、今月中の再開を目指す動きも出ている。


【背景】
 相馬双葉漁協は昨年6月以降、対象の魚種と海域を広げながら試験操業を続け、放射性物質を測り、安全を確認した上で出荷してきた。いわき市漁協も、今月から事故後初の試験操業を始める予定だった。だが、汚染水の海洋流出や地上タンクからの漏えいが発覚。相馬双葉漁協は今月以降の試験操業実施を見送り、いわき市漁協も延期を決めた。汚染水の海洋流出後の海水のモニタリングで安全性が確認され、漁業者、仲買人の合同協議会は今月下旬の試験操業再開を目指すことを申し合わせた。

カテゴリー:震災から2年6カ月