東日本大震災アーカイブ

ADR申し立て検討も 住民サービス低下懸念 市町村

 原発事故に伴う自治体賠償で、県内市町村の請求に対し、東電の支払状況は低迷している。請求から1年近くが経過しても東電からの回答がなく、原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)の申し立てを検討している市町村もある。市町村からは賠償が得られないことによる財政状況の悪化から住民サービスの低下を懸念する声も出ている。

 福島市は原発事故に伴う平成23年度分の損害として20億1608万円を東電に対して請求したが、支払われたのは9768万円と請求額の5%弱にとどまる。

 近く、24年度分を請求する予定で、金額は23年度と同程度になりそうだ。損害分が財政調整基金への積み立てに充てられていたなら、新たな福祉事業など市民サービス向上策を打ち出せた可能性もあるという。市財政課の担当者は「原発事故による税の減収がなければ、道路や農業基盤の整備など地域の要望により幅広く応じることができていた」と話す。

 市は東電が賠償に応じない場合、ADRを視野に、今後の対応を検討するとしている。

 南相馬市は県内の市で最も多い46億8356万円を東電に請求したが、支払率は29・6%の13億8437万円にとどまる。市総務部の担当者は「速やかな賠償が進まないと、復旧に合わせて再開すべき本来の市民サービスが滞る可能性がある」と懸念する。

 同市の賠償請求で東電は病院事業については19億9200万円の請求のうち、13億5500万円の賠償に応じた。だが、住民の避難に伴う水道代の逸失利益や放射性物質検査費用など2億7千万円の請求には300万円ほどしか支払っていない。東電の認める項目のみの賠償では一向に進まない現状がある。

 市は24年度決算を基に、東電に追加で賠償請求する準備を進めている。

 郡山市は23年度の原発事故の損害賠償として東電に約16億円を請求したが、支払われたのは下水道事業と農業集落排水事業の損失分のみで合わせて2300万円にとどまっている。

 使用料の減収分が含まれなかったほか、一般会計の市税減収分や内部被ばく検査費などでは、いまだに金額の提示すらない。原発事故後、法人市民税や入湯税などが減少している。25年度一般会計当初予算では歳出が歳入を上回り、財政調整基金から32億5千万円を繰り入れるなどして対応した。

 市財政課の担当者は「今のところはやり繰りできているが、長引けば財政運営は厳しくなる。完全賠償を求める」と話している。市は24年度の決算確定後に損害分をまとめ、賠償請求する。

 いわき市は原発事故に伴う市民の健康管理費などを含む一般会計、特別会計事業分の計3億7600万円と病院事業、水道事業の損害計2億4300万円を賠償請求している。合計で6億1900万円に上るが、現時点で受け取った額は1億8千万円にとどまる。市財政課によると、凍結する事業が出るなどの直接的な影響は出ていないとする。一方で、追加の賠償請求をするための作業で業務が多忙になるなど間接的な影響が出ている。

カテゴリー:震災から2年6カ月