東日本大震災アーカイブ

未請求者の権利守れ 認知症や知的、精神障害 原発賠償で支援

 東京電力福島第一原発事故の損害賠償で本賠償の未請求者がいることを受け、県弁護士会は、認知症や知的障害などの理由で請求できていない住民のために賠償対象となっている双葉郡と周辺の13市町村を支援する。成年後見人の選任手続きを進める市町村に助言や書類作成を指導する。未請求の場合、損害賠償請求権が来年3月で時効を迎えてしまう恐れがある。今後、市町村との協定締結を目指す。ただ、未請求者の把握が困難で、国と県、市町村、東電の協議進展が不可欠だ。
 県弁護士会の支援は、協定を結んだ市町村が認知症や知的障害、精神障害がある未請求者に成年後見人が必要と考え、家裁に後見人の選任申し立て手続きをする場合が対象。同会が選んだ弁護士が法的手続きの方法などを説明し、申立書作成に関して助言する。専門知識がないとかなりの時間と手間がかかることが予想される。
 未請求者の後見人になる親族らがいない場合、所属する弁護士を推薦する。後見人は本人に代わって法的手続きができるほか、財産管理の役割も担うため、未請求者の利益を守ることにつながる。
 東電への請求書記入は細かく複雑だと指摘されてきた。このため同会は、請求していない住民の中でも認知症や知的障害、精神障害がある「弱者」を支える態勢を整えた。市町村との協定を急ぐのは、民法の損害賠償請求権の時効(3年)が来年3月で成立する可能性があるためだ。東電は時効を主張しない考えを示しているが、法的な担保はなく、国会議員が時効延長の議員立法などを検討している。さらに、「弱者」が高齢の場合、いち早い手続きが必要と判断した。
 富岡町の担当者は「未請求者が分かれば、町として弁護士会の支援を受けたい」と前向きな姿勢を示す。浪江町の担当者も未請求者を把握した上で活用を検討する考えだ。
 県弁護士会の槙裕康副会長は「この取り組みをきっかけに1人でも多くの県民の利益を守りたい」と話す。
 原発事故で政府の避難・屋内退避指示が出され、東電が仮払いした双葉郡など県内13市町村の住民16万5824人のうち、精神的賠償や土地・家屋といった本賠償の未請求者は5月末現在で計1万1214人に上る。
 一方、13市町村の中で、県から交付される療育手帳を持つ知的障害者は4月1日現在で4397人、精神保健福祉法に基づく精神保健福祉手帳を持つ精神障害者は3月末現在で2296人。認知症とされる正確な人数は県や市町村が把握していない。
 13市町村は仮払い実施者が多い順に、南相馬、浪江、富岡、大熊、楢葉、双葉、飯舘、いわき、広野、田村、川内、葛尾、川俣。

■未請求者の把握へ情報共有が鍵
 国と県、13市町村、東京電力は、損害賠償の未請求者の把握が進まない問題の解決に向けて協議を続けている。しかし個人情報保護法により、把握は難しい状況だ。
 県によると、東電は損害賠償を請求した住民の情報を持っており、市町村は住民の避難先を把握している。このため両者の情報を合わせれば未請求者が割り出させる。しかし、両者の情報は個人情報に当たり、「本人の同意がないまま個人情報を外部に全て出すわけにはいかない」(双葉郡内の町村の担当者)のが実情だ。
 県は「どのような形で未請求者を割り出せばいいのか、事務的に調整中だ。早急に解決したい」としている。

※成年後見人
 民法に基づき、記憶力などに障害がある高齢者や知的障害者、精神障害者らを保護するために家庭裁判所が選任する。成年後見人には4親等内の親族や弁護士などの中から家裁が最適と判断した人を選任。選任された成年後見人は本人に代わり本人の意思や生活状況に配慮しながら必要な法的手続きを進めることができる。

カテゴリー:福島第一原発事故