東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示解除準備区域の避難指示が10月1日に解除される川内村は、複合商業施設や災害公営住宅など生活基盤の整備が進む。村は避難指示の解除を復興と住民帰還に向けた新たな一歩と位置付け、森林除染などの課題解決に全力を挙げる。新たな地域づくりが始まる村の現状と課題を探った。
■帰還に期待
村中心部に建設するスーパーを含む複合商業施設は来春オープンする。近くの災害公営住宅も来年6月の入居を目指し、造成工事が進んでいる。村西部地域では村内初の特別養護老人ホームが着工、来夏に開所する予定だ。
村診療所では一時不在だった常勤医が5月から診察をしている。震災前はなかった整形外科、眼科など新たな診療科が増えた。村民の健康維持、増進を支えている。
解除に向けて懸案だった解除準備区域内の村道の舗装改修工事は計画通り終わり、1日から通行が可能になる。
遠藤雄幸村長は「村全体を見渡すと、震災前より充実した部分がある」と住民帰還に期待を寄せる。
■除染へ実証事業
住民の線量への不安を解消するため、環境省は10月から解除準備区域を優先して追加的な除染を行う。雨どいの出口やアスファルトのひび割れ部分など比較的線量が高い部分を除染する方針。
ただ、村は住宅周辺の里山の除染も強く国に求めている。「子どもを自宅そばの自然に触れさせたい」という親からの要望が多い。林野庁は村内で木を伐採して空間放射線量の低減状況を調べる実証事業に入ったが、国による森林除染につながるか見通しは立っていない。
村は国が実施しない場合、村の裁量で除染できる制度の創設を要望している。ただ実現するかどうかは不透明だ。
■生活不安
避難指示が解除される村東部の解除準備区域は、隣接する富岡、大熊両町に生活圏のあった村民が多く、村内での生活再開に不安を感じる人もいる。区域内の無職男性(69)は「震災前は仕事の帰りに買い物もできたが、これからは遠くに行かなければならない」と漏らす。
このため、村は10月から生活必需品や食料品などの移動販売車を解除準備区域で定期的に走らせ、利便性を向上させる。解除準備区域と、診療所や「かわうちの湯」をつなぐバスも運行し、住民の足の確保にも力を入れている。
若者世帯は避難先で仕事を見つけ、子どもを学校に通わせており帰村率はまだ低い。7月1日現在、50歳以上の帰村率が70.5%なのに対し、50歳未満は29.5%となっている。
若い世代の帰還が進まないため、働き手が不足している。震災発生後に誘致した4社が操業を始めたが、このうち川内高原農産物栽培工場「KiMiDoRi」は、従業員不足で稼働率を上げることができない状況が続く。
村は引き続き住民の帰還を呼び掛けるとともに、従業員とともに進出する企業を後押しする考えだ。
【背景】
村の人口は9月1日現在、1151世帯2758人で、53.5%に当たる1476人が村内で生活している。村の避難区域は【地図】の通り。避難指示解除準備区域の住民は全人口のほぼ1割に当たる139世帯275人で、このうち22世帯48人が長期宿泊を申請している。居住制限区域は18世帯53人。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)