東日本大震災

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聖歌に浮かぶ面影 旅館業の傍ら夫婦で音楽

■新地町埒木崎 三宅実さん(74) よしみさん(74)

 新地町埒木崎で旅館を営んでいた三宅実さん(74)と妻のよしみさん(74)は東日本大震災の津波にのまれ帰らぬ人となった。クリスマスが近づく。実さんは毎年この時期、自宅近くの磯山聖ヨハネ教会でオルガンを練習した。クリスマスを祝う行事で聖歌の伴奏を務めていた。実さんの弟の三宅哲さん(73)=郡山市=は、音楽好きで仲の良かった兄夫婦を思い出す。
 実さんは、宮城県境に近い新地町埒木崎字磯山地区で昭和初期から「ときわ旅館」を営む家に生まれた。南相馬市の相馬農高を卒業後に家業を手伝い、後を継ぐ。約2ヘクタールの水田でコメ作りにも励んだ。誠実な人柄で面倒見が良く、地域の人に慕われた。教会は自宅近くの高台にあり、積極的に活動に参加した。
 よしみさんは隣町の宮城県山元町の出身で活発な女性だった。実さんと結婚後、おかみとして旅館を切り盛りした。
 二人は音楽を趣味にしていた。実さんは水田を見回る際、よくハーモニカを吹いた。オルガンは独学で覚え、教会で催しがあると伴奏を引き受けた。よしみさんは地元のコーラスグループに所属し、発表会で歌声を披露していた。
 旅館は家庭料理が自慢だった。相馬原釜漁港に水揚げされた新鮮な魚介類でもてなす。毎年、夏になると東北各地から教会関係者の子どもが訪れた。海水浴や釣り、出張で宿泊した客も二人の温かさに触れ、常連になった。
 震災が起きた時、二人は旅館にいて、津波に流されたとみられている。しばらくして相馬市の沖合で見つかった。
 優しかった兄夫婦-。哲さんは二人の急逝を受け入れられなかった。つらい日々を過ごしてきたが、最近思い出を話せるようになってきた。
 街でクリスマスソングが聞こえる。「今ごろは、天国でオルガンを弾いているのだろう」。哲さんの心には、笑顔で歌う実さんとよしみさんがいる。

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