「放射性物質は目に見えない。検査結果をきちんと伝えて安全性をPRする以外に風評を拭う近道はない」。いわき市の小名浜機船底曳網漁協指導係の中野聡さん(39)は語る。
震災前まで年間1万トンを超える水揚げを誇った小名浜魚市場。昨年の水揚げ量は本格操業を行う巻き網漁のカツオや棒受け網漁のサンマを含め、平成22年の3分の1程度。
中野さんは試験操業で市内の港に揚がった魚の放射性物質検査の結果をまとめ、県漁連、水産庁に報告している。入港した船の魚槽を確認し、対象魚種ではない魚の混入を防ぐ点検作業も行う。「自分が消費者の安全を守る砦(とりで)にならなければ」と言葉に力を込める。
漁協には時折、業者から魚を求める電話がある。11月に同魚市場で催した「いわき魚まつり」では、地元の魚の箱詰め500個余りが約1時間で完売となった。本県漁業の再興を待つ人がいることを実感した。だが反面、子どもがいる家庭の反応などを見ると、いまだ風評が先行しているとの思いも抱く。
中野さんは「国には科学的根拠をしっかり示しながら消費者に安全性を呼び掛けてほしい」と訴える。試験操業の対象魚種が増加傾向にあるのを受け、「魚は活(い)きが勝負。検査時間短縮のため測定機器の開発を進めてほしい」と願う。
(カテゴリー:震災から3年9カ月)