新春を迎え、福島民報社は内堀雅雄知事、菊池製作所(本社・東京)の菊池功社長(飯舘村出身)、日本総合研究所の藻谷(もたに)浩介主席研究員、学習支援組織「ふくしま学びのネットワーク」の前川直哉事務局長、西会津町の農業渡部佳菜子氏、本社の高橋雅行社長による新春特別座談会「新しいふくしまをつくる」を開いた。6人は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興を次のステージに進めるためには、県民が福島への誇りを共有し、未来へ強い意思を持つことが必要との認識で一致した。
平成27年は震災と原発事故から丸4年を迎える。今年は3月に常磐自動車道の全線開通が予定され、物流や観光、人的交流が大きく進展すると期待されている。さらに4月に県立中高一貫校のふたば未来学園高が広野町に開校するなど、復興の前進を象徴する事業が節目を迎える。
一方、依然として原発事故収束の見通しは立たず、12万人以上の県民が避難生活を余儀なくされている。震災前から懸念されていた過疎化、少子・高齢化などの問題も深刻さを増し、地域再生の取り組みが急がれる。
座談会は、内堀知事と農業、工業、教育、地域振興の実践者が「つくる」の視点から、地域の特性や利点を生かした創造の可能性を探った。さらに、復興とともに本県の未来をどのように切り開くべきかについて意見を交わした。
内堀知事は「震災を乗り越えることは、誇りを取り戻すこと」と述べ、県土づくりには県民が古里を思う気持ちが欠かせないとの認識を示した。さらに、地域の宝である若者の文化・スポーツなどでの活躍が復興の原動力になるとして、今年も青少年の活動を支援する考えを強調した。
古里の飯舘村にも工場を構える菊池氏は「県内の中小企業の技術は世界トップクラス」と評価し、ロボット産業の育成などを通して地域再生に貢献すると誓った。今後は大学と連携した研究・開発を進め、南相馬市に生産拠点を整備する構想を掲げた。
藻谷氏は里山振興、人口問題の研究で国内の全市町村を訪れた経験を踏まえ、「震災が招いたピンチがチャンスに変わり、福島県は他県に先駆けて子育て環境が充実した」と語った。このチャンスをいかに生かすかが将来の古里再生の鍵になると見据えた。
有数の進学校である灘高(神戸市)の教諭を辞め、昨年4月から福島市で高校の教育支援に当たる前川氏は「課題解決型の教育に高校生が積極的に取り組んでいる。県内には生きた教材もたくさんある」と述べた。教育旅行の受け皿として活用するよう提案した。
平成23年の震災直後から西会津町で農業に従事する渡部氏は「両親が農業に誇りを持っている姿を見て就農した。農業には可能性がある」と語った。消費者との絆を大切にした活動に取り組んでおり、風評対策として、正しい情報の発信などを求めた。
高橋社長は、森林や川、水などが豊かな県内には地域が発展する要素がたくさんあると指摘。「古里づくりなどの活動に、ともに取り組んでいく」と話した。
出席者(順不同)
知事 内堀雅雄氏
菊池製作所社長 菊池功氏
日本総合研究所主席研究員 藻谷浩介氏
一般社団法人ふくしま学びのネットワーク事務局長 前川直哉氏
農業 渡部佳菜子氏
福島民報社社長 高橋雅行
■「食」づくり 農産物の風評観光通し払拭
本社 弊社は今年、「未来をつくる ふくしまの力で」を年間テーマに抱え、新しい福島をつくる県民の強い意思を応援していく考えです。地域の魅力、可能性をどのように引き出し、活力ある県をつくり出していくべきでしょうか。まずは「食」から考えてみます。
渡部氏 震災後は、ひたすら農作物を生産し、出荷していました。ふと、「何のために栽培しているのだろう」と疑問を抱きました。販売所で同じ野菜が並んでいたら、消費者は生産者の顔が見える方を選ぶでしょう。私も「この人が作った作物だから高値でも買う」と思ってもらえるように、消費者と絆を持ちたいと意識するようになりました。
菊池氏 農業は今以上に大きな産業になります。ただ、農業従事者が減少し、一人一人の労働量を増やさないと、このままでは廃れてしまいます。高齢化も問題です。農業を持続可能にするため、従事者の作業を支援するロボットスーツの開発・生産を進めます。小さな力で重い荷物を持つことを可能にします。
渡部氏 ロボット化は農業を変えると期待されています。作業がつらいとか、もうからないと言われ、後継者が不足していますから。私は、両親が農業に誇りを持つ姿を見て、就業しました。収益面などで可能性にあふれているのも魅力の一つです。人間は食べなければ生きていけません。それを支えるのが農業の使命なのです。
本社 県はコメの全量全袋検査などで食の安全・安心に努めていますが、それでも県産農作物への風評は残っています。
知事 風評で傷ついている農業を救うために一番即効性があるのは観光です。4月に「ふくしまデスティネーションキャンペーン(DC)」が始まります。多くの来県者が見込まれます。県内の農産物の生産現場を見て、安全・安心なんだと感じてもらう機会をつくりたいと考えています。観光に農家民泊なども組み合わせ、風評を払拭(ふっしょく)します。
藻谷氏 観光客、特に外国人を増やすことを念頭に置くのも一つの手法です。福島の地で実際に食べたものを、ブログなどインターネットを通じて世界中に情報発信してくれます。子どもの国際交流の場にもなり得ます。外国人は、東京の観光だけでは物足りず、田舎に行きたがる傾向にあります。
渡部氏 県外のイベントに参加すると「福島」という文字を見ただけで、農作物を手に取らない人がいます。東京の流通業者に「依然として消費者が敬遠しがちなため、福島の野菜は買い取れない」と言われました。県産は検査しているため安全・安心であることが十分に伝わっていません。正しい情報を、もっと積極的に発信しなくてはなりません。
■「人」づくり 震災伝え続ける 教育旅行活用を
本社 震災後に多くの子どもが県内外に避難するなどし、将来の本県を担う人材育成も欠かせません。「人」づくりへの意見をうかがいます。
前川氏 今の子どもたちは、ずっと不況の中で育ってきました。生活が上向くという実感がないため、「いい暮らしをしたければ勉強しなさい」と言うより、「誰かのために役立ちたいのなら勉強しなさい」と諭した方が心に響きます。震災と原発事故を経験した福島の子どもは、社会的に偉くなることよりも他人を笑顔にしたいという思いの方が強いように感じます。
高橋 震災発生後の支援への感謝や復興への決意を発信する弊社の「復興大使事業」に参加する子どもたちを見ていると、たくましいなと実感します。ただ、時間の経過とともに、震災体験のない子どもも増えてきます。震災から学んだことを次の世代へと伝え続けることが大切になります。
前川氏 全国的に知識詰め込み型の教育に代わり、課題解決型の教育が主流になっています。福島の高校生は復興や風評払拭(ふっしょく)、過疎対策などの課題に自分が何ができるかを考えて行動しています。言い方を変えれば、県内には生きた教材がたくさんあります。教育旅行の受け皿として活用することもできます。
本社 子どもたちの可能性を伸ばしたいですね。県内の教育環境はいかがでしょう。
前川氏 都市部から離れて住んでいるため、大学進学を希望しながらも断念せざるを得ない高校生らがいます。県営の寮を各地に設けるなど、県内のどこに住んでいても等しく教育を受けられることが重要です。先生任せ、親任せではなく、学校を中心に地域全体で教育に取り組む姿勢も求められます。
知事 中高生の全国大会などでの活躍に県民の皆さんは元気づけられています。あらためて文化とスポーツの力の素晴らしさを実感しています。言葉で言い表せないことを、人の心に伝えてくれます。今年1年も若者の活動を応援し、復興に進む原動力にしたいと思っています。
藻谷氏 広島県にプロ野球の広島カープが設立されたのは原爆投下から5年目でした。その後、なかなか優勝できませんでしたが、投下から30年目に初優勝しました。何事も結果が出るまでに時間がかかります。福島も30年後を見据えて、今から何かを始めませんか。震災から5年目の今年、カープと同じような新しい動きが出ることを期待しています。
■「人」づくり 震災伝え続ける 教育旅行活用を
本社 震災後に多くの子どもが県内外に避難するなどし、将来の本県を担う人材育成も欠かせません。「人」づくりへの意見をうかがいます。
前川氏 今の子どもたちは、ずっと不況の中で育ってきました。生活が上向くという実感がないため、「いい暮らしをしたければ勉強しなさい」と言うより、「誰かのために役立ちたいのなら勉強しなさい」と諭した方が心に響きます。震災と原発事故を経験した福島の子どもは、社会的に偉くなることよりも他人を笑顔にしたいという思いの方が強いように感じます。
高橋 震災発生後の支援への感謝や復興への決意を発信する弊社の「復興大使事業」に参加する子どもたちを見ていると、たくましいなと実感します。ただ、時間の経過とともに、震災体験のない子どもも増えてきます。震災から学んだことを次の世代へと伝え続けることが大切になります。
前川氏 全国的に知識詰め込み型の教育に代わり、課題解決型の教育が主流になっています。福島の高校生は復興や風評払拭(ふっしょく)、過疎対策などの課題に自分が何ができるかを考えて行動しています。言い方を変えれば、県内には生きた教材がたくさんあります。教育旅行の受け皿として活用することもできます。
本社 子どもたちの可能性を伸ばしたいですね。県内の教育環境はいかがでしょう。
前川氏 都市部から離れて住んでいるため、大学進学を希望しながらも断念せざるを得ない高校生らがいます。県営の寮を各地に設けるなど、県内のどこに住んでいても等しく教育を受けられることが重要です。先生任せ、親任せではなく、学校を中心に地域全体で教育に取り組む姿勢も求められます。
知事 中高生の全国大会などでの活躍に県民の皆さんは元気づけられています。あらためて文化とスポーツの力の素晴らしさを実感しています。言葉で言い表せないことを、人の心に伝えてくれます。今年1年も若者の活動を応援し、復興に進む原動力にしたいと思っています。
藻谷氏 広島県にプロ野球の広島カープが設立されたのは原爆投下から5年目でした。その後、なかなか優勝できませんでしたが、投下から30年目に初優勝しました。何事も結果が出るまでに時間がかかります。福島も30年後を見据えて、今から何かを始めませんか。震災から5年目の今年、カープと同じような新しい動きが出ることを期待しています。
■「もの」づくり ロボット産業育成
本社 本県には全国や世界に誇れる技術を持った企業が多数あります。各企業がさらに輝くにはどのような取り組みが必要でしょうか。
菊池氏 安倍晋三首相はロボットによる産業革命を主張しています。大手企業が開発するロボットは、工場などで使われる生産用が中心です。一方で医療や介護、リハビリなど利用者のニーズに応じたロボットは、匠(たくみ)の技を持ち、少量生産に対応できる中小企業の得意分野です。県内の中小企業の技術は世界トップクラスと自負しています。地元の産業発展に生かしたいですね。
高橋 ロボット産業は裾野が広く、中学生や高校生の関心を引き、職業としても選択肢となる分野でしょう。かつ将来性があり、本県復興に欠かせません。
菊池氏 ロボット開発を通して復興に携わりたいという大学が増えています。当社は早稲田大、千葉大、東京理科大、東京大と協力し、災害用ロボットの製作に取り組んでいます。今後は、橋の点検や防犯などにも使える「マルチヘリコプター」の開発・生産を南相馬市で県内の大学と進める予定です。ぜひ成功させたいと思っています。
知事 福島再生のため、県内の産業革命も進めていきます。その核となるのがロボット産業です。原発事故の収束作業や日常生活の支援などロボットが活躍できる分野はさらに拡大していくでしょう。販路は世界に広がっています。福島の丁寧で心を込めた"までい"なロボットは広く評価されるはずです。国とともに支援していきます。
菊池氏 当社は県の産業復興企業立地補助金を活用して南相馬市にある1万5千坪の工場跡を使用することになりました。災害対応ロボット産業支援事業にも三件採択されました。このように多くの支援を受けており、地元企業と連携を深めるなど、仕事を通じて本県復興に精いっぱい努力します。
藻谷氏 福島は首都圏に近く立地に恵まれています。人材も豊かです。震災時の県民を含む東北人の対応は世界中から称賛されました。福島のものづくりは飛躍するチャンスを迎えています。ロボット産業の主導権を地元が握ることで、地域経済が潤うサイクルを整えるべきです。
知事 県民が安心して働き、暮らせるために除染を進め、社会資本をできるだけ早く整えていくことは行政の使命であると考えています。本県に根差したものづくりを各方面から後押ししていきます。
■「古里」づくり 再生へ子育て環境充実
本社 人口減少が大きな社会問題になっています。県内は震災の影響などで他県よりも過疎が急激に進行しました。ただ、古里に対する県民の意識は強くなっています。
菊池氏 古里の飯舘村にある当社工場は震災前、約400人の従業員がいました。しかし、現在は約300人です。辞めたのは子育て世代の30歳前後が中心です。震災前から、村民のための工場だと思い、経営してきました。今後も古里再生のために貢献したいと思っています。村外との結び付きも強め、地域をけん引しようと考えています。
藻谷氏 福島県は自然や食など全てが豊かな県で、以前は他県の人を受け入れないというか、内輪で固まる傾向が強かったと思います。しかし、原発事故で過疎が加速的に進み、県民は県外から来た人を迎え入れることの大切さを知りました。他の県に比べ、20~30年早く大事なことに気付いたといえます。
本社 どのような変化が起きているのでしょうか。
藻谷氏 県民は、少子化が進むと地域の活力が衰退することを実感したのです。さらに、子どもを産み、育てる環境の重要性を認識しました。その結果、今の福島県は他県に先駆けて子育て環境が整いつつあります。震災が招いたピンチがチャンスに変わろうとしています。このチャンスをいかに生かすかが将来の古里再生の鍵になるでしょう。
高橋 県内の町村部は面積の6割を占めますが、人口は県全体の2割程度です。森林、川、水などの資源がたくさんあるのに人は少ないのが現状です。地域が発展する要素はまだまだ残されています。
渡部氏 地域活性化には「よそもの(よそ者)」「わかもの(若者)」「ばかもの(ばか者)」の存在が欠かせないと言われます。よそものは第三者の視点、ばかものは強いエネルギーと発想力、わかものは行動力があります。西会津町でも都会から来た子たちがアートなどを通して地域の魅力を発掘してくれています。
前川氏 福島市に引っ越してきて「こんなにいい場所だったら早く引っ越していればよかった」と思っています。お酒もおいしいし、人柄も温かいです。県内の高校から首都圏の大学に進学した学生に接しても、古里への愛着の強さがうかがえます。それは震災によって、さらに醸成されたのだろうと思います。
知事 「古里をつくる」という言葉の根底にあるのは地域に対する誇りだと思います。福島の人が福島を思う。再生させるんだ、復活させるんだとの意気込みを持って日々を過ごすことが一番大切です。つまり、震災を乗り越えることは、誇りを取り戻すことなのです。
前川氏 福島に対する誇りは大人から子にも引き継がれたと信じています。震災時に、大人は、自分の子どもだけでなく、地域の子どもたちを最優先に守ろうと活動しました。この誇らしい姿を子どもたちは見ています。少しのことではくじけません。
渡部氏 震災がなければ、今のように西会津町に目を向けてくれる人は少なかったでしょう。どん底になったからこそ「このままじゃいけない」という危機感が人々を動かしました。その成果が地域の活力として表れています。若者の連携も出ています。将来が頼もしく感じられます。
知事 本県の厳しい状況を乗り越えることが今を生きる世代の使命です。実現できれば、世界に発信できるものすごいことです。逆に成し遂げなかったら、後世の子どもたちから叱られてしまいます。今年1年は誇りを取り戻し、みんなの力で古里をつくるんだという気概を持って挑戦していく。そういう大事な1年にしていきたいと思います。
高橋 「古里づくり」に関して貴重なご意見、ご提言を頂きました。地元に根差す新聞社の役割を再認識し、地域とともに歩んでいきます。ありがとうございました。
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