東日本大震災

「3.11大震災・断面」アーカイブ

  • Check

【大規模畜産農家】堆肥山積「もう限界」 風評...取引先なく 保管場所建設で負担増

新設した堆肥舎脇で現状を説明する上野さん=郡山市、上野牧場

 県内の多くの大規模畜産農家で出荷できない堆肥がたまり続け、経営を圧迫する事態に陥っている。東京電力福島第一原発事故による風評で取引先が思うように確保できないのが主な要因だ。畜産農家は保管場所を増やすなどして対応しているが、整備費用などの自己負担を強いられている。県は取引先の確保などの支援策を講じているが、抜本的な解決には至っていない。

■ため息
 「考えられる手は尽くしてきた。もう、限界だ」
 郡山、田村の両市で「上野牧場」を営み、肉用牛を肥育している上野一夫さん(66)は、堆肥を保管する施設「堆肥舎」の天井間際にまで積み上がった状況を見詰め、ため息を漏らした。肥育頭数は約3000頭。県内有数の畜産農家として知られ、1年間に排出される量は約2万トンに及ぶ。
 原発事故の前は、全量を堆肥化し、販売していた。事故後に放射性セシウムの基準値を超える堆肥が県内で確認されたことで、状況は一変。基準値未満でも取引先を確保できなくなった。取引実績のあった業者は県外の仕入れに切り替え、「福島産だから...」と断られることもあった。
 出荷が滞ると、既存の堆肥舎は数カ月で満杯になった。24年冬に約2億円を投じて床面積3000平方メートル、高さ12メートルの堆肥舎を新設したが、4カ月ほどで埋まった。現在は付近に土地を借りて厳重な管理の下、保管している。上野さんは堆肥舎の建設費や搬送費、埋め立て費用を東電に賠償請求したが、搬送費の一部を除いて賠償の対象外とされたという。7月に東電と国を相手取り、地裁郡山支部に賠償訴訟を起こした。「なぜ、原発事故で必要を迫られている経費を自分で負担しなくてはならないのか」-。憤りを隠さない。

■流通回復せず
 県によると、今年度に入っても事態は改善していない。県などの支援で一部は流通したが、堆肥は発生し続けているため、大きく減少していないとみられる。
 理由として、原発事故後に調達先を県外に変更した取引先が、本県産に戻すのを敬遠していることが考えられるという。ある肥料業者は「一部の納入先から『福島産』を避けたいという意向が示されている。納入先の意見は重視せざるを得ない」と苦しい胸の内を明かした。管内に多くの畜産農家があるJA郡山市の担当者も「県産の使用をためらっているケースがあるのではないか」との見方を示した。

■打開策
 県は国などの協力を得て、平成25年度から取引先の新規開拓を支援しているほか、取引先まで堆肥を運搬する費用を補助している。しかし、大規模畜産農家からは抜本的な解決にはつながらない-との声が上がっていた。
 こうした事態を受け、県は今年度から双葉郡など国直轄除染地域で表土を除去した農地に、堆肥を活用する事業を始めた。農地に新たな土を入れる際に堆肥を混ぜ合わせることで、栄養価の高い土を作る。現在、対象地域内の需要などを調査中で、来年度からの本格実施を目指している。県環境保全農業課は「原発事故前の流通状態に戻すために、あらゆる手だてを講じていきたい」としている。

【背景】
 県内で200頭以上の肉用牛を育てる大規模畜産農家は、今年2月現在、約40戸ある。県などによる昨年6月時点の調査で、取引先が決まらない堆肥は約7万トンに上っていた。取引の停滞が、どの程度にまで及んでいるか詳細な調査結果はないが、県や県酪農業協同組合など生産者団体によると、大規模経営農家の多くが大量の堆肥を抱えている状況だという。堆肥は産業廃棄物に指定されており、埋設や焼却処分に多額の費用を要するのも一因となっている。

カテゴリー:3.11大震災・断面

「3.11大震災・断面」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧