富岡町夜の森地区の桜の下で観光人力車を走らせていた。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で避難を強いられ、避難先の二本松、白河両市で支援への恩返しの気持ちを込めて人力車を引いていた。
栃木県那須町で営む「人力車&昭和レトロ館」を開業し、24日で開館から丸2年を迎える。行楽シーズンになると県内をはじめ関東圏からも大勢の人が足を運んでくれている。
■『逆境に負けない』
レトロ館は「昭和時代の富岡町夜の森地区」がテーマ。まぶたに焼き付いている古里・富岡町の情景を再現した。看板や小道具、飲食店や駐在所などは、かつての町の姿を知っている人ならば懐かしさがこみ上げてくると思う。館内中央に、かつて町内で走らせていた自慢の人力車を置いた。
避難生活は7年目に入ろうとしているが、生きがいさえ見つけられれば人は逆境には負けない-。そう自分に言い聞かせている。
震災と原発事故後は二本松、郡山両市などを転々とし、ようやく白河市に住まいを構えて落ち着いた。白河で人力車を活用した観光業を始めたが、残念ながら軌道には乗せられなかった。
何とか人力車を復活させたいと思っていた矢先に栃木県那須町の空き店舗を使える話に出合った。どこまで続けられるか分からないが、力の続く限り挑戦し続けたい。
■『戻りたいけど...』
4月に富岡町の居住制限、避難指示解除準備両区域が解除される。
自宅は居住制限区域内にあるが、レトロ館は軌道に乗ったばかり。古里に戻られるのはうれしいが以前のような仕事を古里でできるのかは全く見通せない。観光業は利用してくれる人がいて初めて成り立つからだ。しばらくは古里の復興状況を見極めながら避難先で生活と仕事を続けていくことになるだろう。
再びあの見事な夜の森の桜並木の下で人力車を引きたい。夢が実現するその日まで人力車の手入れは怠らない。
(カテゴリー:「3.11」から6年それぞれの軌跡)