東日本大震災

「震災から6年」アーカイブ

  • Check

「農林漁業」着実に信頼回復 試験操業 水揚げ増加

 東京電力福島第一原発事故後、本県沖で続く試験操業は今月で開始から4年9カ月となる。対象魚種は97魚種まで拡大し、水揚げ量は年々増加している。海域も次第に広がり、今春には福島第一原発から半径10〜20キロ圏内での操業が始まる。

 試験操業は平成24年6月に始まった。開始当初はミズダコ、ヤナギダコ、シライトマキバイの3魚種だったが、魚種を順次追加し、97魚種まで増えた。28年は主力種ヒラメなど22魚種が対象魚種に加わった。

 24年が122トン、25年が406トン、26年が742トン、27年が1512トン、28年が2072トン(速報値)と増加している。ただ、28年は原発事故前の22年の1割に満たない。


 ■半径10キロ圏に対象海域拡大

 開始当初の海域は宮城県との県境付近から相馬市近辺までの約50キロ以上沖合で、水深150メートルより深い海域で漁獲していた。24年10月には南側に16キロほど拡大。25年2月にはさらに南側へ最大30キロほど広げた。

 25年10月には、いわき市漁協と小名浜機船底曳網漁協がいわき市沖での試験操業を開始。同年12月になると、いわき側と相双側に分かれていた操業海域を統合し、所属漁協に関係なく海域内であればどこででも試験操業ができるようになった。27年7月には原発から半径20キロ圏を除く本県沖全体が対象となった。

 原発から半径10〜20キロ圏の対象追加は、今年2月に県漁協組合長会議で決定した。海域内にある災害がれきの撤去が1月に完了するなどして、操業の道筋が立ったために決まった。相馬双葉漁協が今月中旬にもコウナゴ漁を始める予定だ。


 ■28年、基準超なし 福島県沖魚介類の検査

 本県沖の魚介類を対象とした県の放射性セシウム検査で、平成28年に結果を公表した8594点全てが食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を下回った。基準値超の検体数は検査を始めた23年以降減少しており、28年は初めてゼロとなった。

 基準値を超えたのは23年が1952点のうち778点(39・9%)、24年が5578点のうち927点(16・6%)、25年が7549点のうち283点(3・7%)、26年は8706点のうち76点(0・9%)、27年は8577点のうち4点(0・047%)だった。

 県は基準値超の検体が減っている要因として、(1)セシウム134の半減期が約2年である(2)魚介類の世代交代が進んだ−ことを挙げている。

 各漁協は試験操業で水揚げされた海産物のうち、食品衛生法の基準値よりも厳しい独自の基準(1キロ当たり50ベクレル)を下回った水産物を出荷している。


■JA福島五連会長 大橋信夫氏に聞く 身近な販促活動 必要

 東日本大震災と原発事故から間もなく6年を迎える中、県産農畜産物に対する風評は根強く、生産者を取り巻く経営環境は依然として厳しい。JA福島五連の大橋信夫会長(69)に農業再生への考えを聞いた。


 −県内農業の現状をどう捉えているか。

 「相双地方で稲作の作付け再開が進むなど徐々に明るい兆しが見えてきている。一方、県産農畜産物は依然として風評の影響を受けており、嗜好(しこう)品である果実を中心に全国平均価格との価格差は依然として縮まっていない。さらに、販売農家数の減少や農業所得の低迷が続いており、このままでは県内農業の生産基盤が脆弱(ぜいじゃく)化する恐れがある」


 −県産農産物の風評対策をどう進めるのか。

 「放射性物質検査を続け、消費者が安心して買い求めることのできる農畜産物を提供する。今後はイベント型のPRに加え、消費者に身近な販促活動が必要だ。具体的には店頭での対面宣伝で県産品の鮮度や品質を実感してもらい、継続的な購入につなげたい。先月には関係省庁、県、JAが連携して風評対策を進める協議会が発足した。地元の意見を反映させてもらう」


 −県内JAが再編して今月で1年を迎えた。再編の成果と今後の課題は。

 「県内にあった17JAのうち16JAが再編され、ふくしま未来、福島さくら、夢みなみ、会津よつばの4JAが誕生した。4JAは幅広いネットワークを生かした取り組みを進めている。肥料の銘柄を集約して新たな商品を開発したり、複数の農産物直売所が連携して新鮮さや安全性をPRしたりしている。今後はJAが広域化した利点を生かし、販売先の確保や6次化商品の開発などを進め、農家の所得向上につなげていく」


 −風評被害に伴う損害賠償で、避難区域外の農林業者に対する来年1月以降の枠組みが決まっていない。

 「風評被害が継続する限り適切に賠償が行われるべきだ。被害を受けた生産者の意見を集約し、東京電力と賠償基準に関する具体的な協議を進める」


 −先月の日米首脳会談では、貿易分野などで幅広く協議する枠組みを新設することで合意した。トランプ大統領が意欲的な自由貿易協定(FTA)交渉に進むか注目される。

 「米国の生産者団体は環太平洋連携協定(TPP)の代替策を政権に求めている。今後どのような協議がされるか注視する必要がある。農業や協同組合の振興が阻害されないためのルール整備を訴えていく」

 略歴
 おおはし・のぶお 伊達市梁川町出身。福島農蚕(現福島明成)高卒。平成15年7月からJA伊達みらい組合長を務め、22年6月にJA福島五連副会長に就いた。26年6月から会長。69歳。


 ■安全な県産食品

 県内で収穫されたコメの放射性物質を調べる全量全袋検査で、昨年末までに調べた平成28年産米全てで放射性セシウムが食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を下回った。魚介類は28年の検査結果公表分で基準値超えはなく、県産食品の安全性に対する信頼回復が一歩ずつ進んでいる。農畜産物の輸出が拡大するなど明るい動きも出ているが、風評払拭(ふっしょく)や販路拡大など課題は山積している。


 ■新米の全量全袋検査 3年連続基準超ゼロ

 全量全袋検査で、県が28年末までに調べた同年産米約1千万点全てが食品衛生法の基準値を下回った。一般的に新米とされる生産年の8月から12月までを対象とした検査で、基準値超過ゼロとなったのは3年連続。

 28年産は昨年末までに1003万1434点をスクリーニング検査し、1003万1025点(99・996%)で検出下限値未満だった。

 スクリーニング検査の機器が基準値超えの可能性があると検知した検体は詳細検査を行う。該当した50点で、全てが検出下限値未満となった。

 県は基準値を超えた検体がなかったことについて、セシウム134の半減期が約2年である点に加え、塩化カリウム肥料散布などセシウムの吸収抑制対策を進めたことが奏功したとみている。


 ■東南アジア3カ国向け モモ輸出「日本一」

 タイ、マレーシア、インドネシアの東南アジア3カ国に対する平成28年の県産モモの輸出量はそれぞれ国産全体の73・9%、76・8%、55・9%を占め産地別のシェア(市場占有率)で「日本一」となった。年間輸出量は震災と原発事故前の22年を初めて上回った。

 28年は原発事故前の22年と比べて6・7トン多い30・6トンだった。

 震災前の主要輸出先だった台湾や香港は輸入規制が続いている。県や全農県本部は販売経路の見直しに着手し、いち早く規制を緩和した国への輸出促進に力を入れてきた。県県産品振興戦略課は「販売戦略の見直しが成功した。福島のモモの品質が認められた」としている。


 ■28年度のJA県産農畜産物輸出量 震災後最多に

 全農県本部による平成28年度の県産農畜産物の輸出見通しは64トン(3500万円)で、前年度実績の27トン(1900万円)を大幅に上回り、震災と原発事故後最多となる見込みとなった。

 精米、食肉、果実、野菜の4分野のうち、主に精米と果実の輸出量が増加した。英国が新たに輸出先に加わったコメは前年度比24倍の21トン、タイへの輸出が拡大したモモは前年度比2・6倍の28トンとなる見通し。

 全農県本部は29年度について、コメやモモの輸出を一層強化し、農畜産物全体で225トン(1億3600万円)を目指す。コメは40トン、モモは百トンに設定した。

 全農県本部は輸出量の増加について、長期間鮮度を維持できる「CAコンテナ」の導入や県産品のPR活動の成果とみている。

 原発事故後に各国で導入された日本産食品に対する輸入規制は徐々に緩和、撤廃されている。クウェートは昨年、県内産を含む国産食品の輸入規制措置をペルシャ湾岸諸国でつくる湾岸協力会議(GCC)全6カ国で初めて解除した。


 ■農業産出額 前年比増でも 震災前水準 達せず

 平成27年の県内農業産出額は1973億円で前年と比べて136億円増えたが、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生前の22年の水準に回復していない。

 22年は2330億円だったが、23年は1851億円に減少。24年は2021億円、25年は2049億円と回復したが、26年は米価下落に伴うコメの産出額減少などの影響で1837億円と再び落ち込んだ。

 27年のコメ60キロ当たりの価格は1万2066円で、3年ぶりに前年を上回った。全国平均より1109円安かった。

 28年のモモ1キロ当たりの価格は399円で前年より30円低下した。23年以降は回復傾向にあり、減少は5年ぶり。28年は全国平均を115円下回った。

 28年の肉用牛(和牛)1キロ当たりの価格は2447円で、震災前年の22年を超えた27年をさらに上回った。全国的な価格高騰の影響とみられる。全国平均より242円安かった。


 ■ルポ イチゴサイダーで笑顔に 風評払拭へ挑戦 霊山で「松葉園」経営 大橋松太郎さん
 
 伊達市霊山町山戸田の大橋松太郎さん(32)は「イチゴから笑顔」の理念の下、イチゴ農園「松葉園」を営んでいる。2月に農園のイチゴを使ったサイダーを完成させた。原発事故に伴う県産農産物の風評の払拭につなげようと挑戦を続けている。

 サイダーは農園で採れたイチゴ果汁を約3%使っている。果汁入りサイダーとしては比率が高いという。瓶のふたを開けるとイチゴの甘い香りがふんわりと広がる。仙台市の食品会社で製造し農園で販売している。1本税抜き300円。

 震災が起きた平成23年、農園の出荷量はそれまでの半分以下に落ち込んだ。首都圏にPRに行くと、「福島産」というだけで避ける人もいた。採れたイチゴを捨てる日が続いた。

 栽培を続けるよう背中を押してくれたのは、農園を訪れた一人の男性だった。「妻に供えたい」。震災前から夫婦で大橋さんの元を訪れイチゴを食べていた。震災後に亡くなった愛妻のため買いに来たという。

 男性がイチゴをひとくち頬張った際の笑顔が忘れられない。「その人の人生の一部に自分のイチゴがあったと思うと、もっとたくさんの人に食べてもらいたいと願った」。大橋さんは農園のイチゴが1年中味わえるサイダーの開発を決めた。

 来年春、新たな挑戦を始める。市内霊山町下小国にオープンする道の駅「伊達の郷りょうぜん」でイチゴとイチゴサイダーを販売する予定だ。道の駅は115号国道バイパス「相馬福島道路」の霊山インターチェンジ(仮称)そばにできる。新たな交通の流れが生まれ、市外から訪れる人に売り込むチャンスとなる。

 新たな6次化商品が福島の農業と古里・霊山の活性化につながると信じている。(伊達支社・笹越 寛人)

カテゴリー:震災から6年

「震災から6年」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧