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【震災から7年】「健康管理」甲状腺検査4巡目に

■2巡目結果を受け放射線の影響評価

 甲状腺検査は原発事故当時18歳以下だった県内全ての子ども約38万人が対象。2016、2017年度に3巡目の検査が行われた。検査の流れと、現在公表されている2017年12月末までの結果は【図】の通り。甲状腺がんと確定したのは160人、がんの疑いのある人は36人いた。

 検査は対象者が20歳を迎えるまで2年に一度、その後は5年に一度ずつ受診する計画で、5月には4巡目の検査が始まる。医師や放射線、疫学などの専門家でつくる県民健康調査検討委員会は2016年3月、1巡目(2011~2013年度)の結果を踏まえ、検査で発見されたがんは「放射線の影響とは考えにくい」との中間取りまとめを出した。がんやがんの疑いと診断される例は2、3巡目の検査でも見つかっている。

 国内の科学者でつくる日本学術会議は2017年9月、福島第一原発事故による放射線の影響に関する評価を発表した。放射性物質の放出量はチェルノブイリの7分の1にとどまるとし、検査でがんが見つかっていることについて、高精度の調査が大規模に行われたことによる「スクリーニング効果」と指摘した。

 検討委員会と下部組織の甲状腺検査評価部会は、放射線被ばくとがんの関連について検討を続けており、今後は2巡目の結果を踏まえた見解を示す方針だ。

 福島医大は2017年11月の評価部会で2巡目でがんやがんの疑いと診断された受診者の割合は避難指示が出るなどした13市町村で他地域を上回る-との分析結果を示した。しかし、詳しい評価には受診率や受診者の年齢、性別、1、2巡目の受診間隔などを精査する必要があるとしている。

 受診率が低下傾向にある中、結果の分析に「がん登録事業」のデータを活用する選択肢も浮上している。5日の県民健康調査検討委員会では検査手法や、対象者への説明の在り方について意見が交わされた。

 長期の低線量被ばくによる影響は世界的に知見が限られ、十分には解明されていない。県民の健康を守るために始まった調査は放射線への評価や、がんと診断された受診者へのケアなど多くの論点を抱えたまま、8年目を迎えようとしている。


■「甲状腺検査」「健康診査」「妊産婦調査」 「こころの健康度・生活習慣に関する調査」 全4種類の調査を継続

 県民健康調査には甲状腺検査のほか、避難指示が出るなどした地域の全住民を対象とした「健康診査」「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、全県の妊産婦を対象とした「妊産婦調査」の計4種類の調査がある。

 妊産婦調査は2011年度以降、県内で1年間に妊娠・出産する女性1万5千人程度に対し、産前産後の精神的な健康状況や、新生児の先天奇形・異常が起きる頻度などを調べている。回答率は例年5割前後となっている。

 5日の県民健康調査検討委員会で示された2016年度調査の結果は先天奇形・異常の発生率は2・55%となり、一般的な発生率(3~5%)と変わらなかった。早産や低体重児の割合も全国平均と差がなかった。初年度から同様の傾向が続いている。一方、産後うつと推定された母親は11・2%で、減少傾向にあるものの全国値の8・4%をやや上回った。

 健康診査は原発事故で避難区域が設定されるなどした双葉郡8町村と南相馬、田村、川俣、飯舘の4市町村の全域、伊達市の一部が対象。調査から肥満や高血圧、糖尿病などの割合が高い傾向があり、避難に伴う生活スタイルの変化などが影響しているとみられる。

 こころの健康度・生活習慣に関する調査では、2月に開始した2017年度調査から成人向けの調査表に震災以外のストレス要因の有無を尋ねる項目を追加した。避難者の心や健康に関する不安の解消を図る。

 震災と原発事故からの時間の経過や対象者の県外転出に伴い、受診率は低下している。

 健康診査は2011年度には15歳以下で64・5%、16歳以上で30・9%だったが、2016年度はそれぞれ26・1%、20・9%に減少。甲状腺検査は2011年度の87・5%から2015年度には67・7%となった。

 福島医大は2018年度も各種調査を継続し、県民の健康の維持を支援する。


■県民健康調査 基金で運営

 県民健康調査は「県民健康管理基金」で運営している。基金は事故直後の2011年度に設置され、2040年度まで30年分の事業費として国からの交付金781億円、東電からの賠償金250億円の計1032億円を積み立てた。

 近年はこれを年間40数億円ずつ取り崩しており、残高は2016年度末時点で719億円となっている。調査を終える時期は決まっていない。


■県民不安に寄り添う 県民健康調査検討委員会座長 星北斗氏に聞く

 県民健康調査検討委員会に設立当初から携わり、座長を務める星北斗氏(県医師会副会長)に調査の現状や課題を聞いた。

 -中間取りまとめから約2年が過ぎた。甲状腺検査について新たな評価を示す考えは。

 「中間取りまとめは1巡目の結果とチェルノブイリなど過去の知見を基に判断した。現時点では判断を変える要素はないが、2巡目の結果が固まりつつある。甲状腺検査評価部会で議論を深めてもらい、それを踏まえた評価をできるだけ早く示す」

 -時間の経過などに伴い受診率が低下している。

 「受診率低下が受診環境に起因するのなら、受けやすい環境を整えるべきだ。学校検査で受診を断りづらい状況にあるなら、それに配慮した方法を考える必要がある。放射線の影響を判断するために多くの人に受けてほしいが、望まない人に強いるわけにはいかない。放射線の影響評価と合わせ、検査態勢も並行して議論していく」

 -甲状腺検査の意義を改めてうかがう。

 「検診は検査方法と治療法、さらにその利点がそろって初めて正当化される。ただ、この検査は放射線による子どもの甲状腺への影響を調べることと、県民の不安に寄り添うという2つの目的で始まった。悪化しない可能性のある例も含めて、がんが見つかる検査を『不利益だ』という指摘は理解できる。がんと診断された人をどう支えるかは大きな課題だ」

 -検査を終えるタイミングをどう考えるか。

 「『放射線の影響がない』という結論に至ったとしても、『影響がないと分かったから検査しない』という話ではない。不安に思う人の窓口は必要だ。受診者には検査のメリットとデメリットを十分説明し、理解してもらった上で判断してもらう。情報を伝える努力が一層重要になる」

 -原発事故についてどう考えるか。

 「原発事故さえなければ大半の子どもたちは検査を受け、結果を心配することもなかった。これは事故がもたらした最大の罪だ。このことだけはずっと訴え続けていく」

 ほし・ほくと 郡山市出身。安積高、東邦大医学部卒。旧厚生省などを経て、2008年から星総合病院理事長。県医師会常任理事、副会長として県民健康調査検討委員会に当初から携わる。53歳。


■データ 健康に還元へ 福島医大放射線医学県民健康管理センター長 神谷研二氏に聞く

 県民健康調査の事務局を担う福島医大放射線医学県民健康管理センターの神谷研二センター長に調査の現状や課題を聞いた。

 -調査開始から約7年が過ぎた。現状をどう捉えているか。

 「13市町村の住民を対象とする健康診査では肥満や高血圧、糖尿病などの傾向がある。こころの健康度・生活習慣調査、全県を対象とした妊産婦調査でも依然として、うつ傾向の割合が全国値を上回っている。甲状腺検査では二巡目の検査結果に関する議論が甲状腺検査評価部会で始まったところだ」

 -調査を継続していく上での課題は何か。

 「調査で得たデータを県民の健康増進・維持に役立てる仕組みが重要になる。健康診査は各市町村で結果報告会を開くなどして情報を伝えている。県や市町村と連携して健康ケアにつながる取り組みを進める」

 -甲状腺検査で19歳以上の受診率を高めていく方策は。

 「進学などで県外に出る人にも継続して受診してもらうため、高校在学中に案内資料を届け、次回受診時期や住所変更時の連絡先などを伝えている。2018年度は試行的に福島、郡山両市に夜間検査会場を設け、仕事や学校の都合に配慮する。受診者目線で受診機会を増やしたい」

 -県民健康調査検討委員会や、甲状腺検査評価部会で検査の在り方を巡る議論が続いている。

 「検査の今後の方向性などは評価部会で議論されている。2次検査の結果についても受診率や年齢、受診間隔などの因子を統計・疫学的観点で分析、精査して報告する」

 -調査を通して福島医大はどんな役割を担うのか。

 「単に検査するだけではなく、県民に結果をお返しすることで健康の維持・増進につなげたい。原発事故が起きたことは非常に残念だったが、その経験を健康に留意するきっかけにしてほしい。県民の健康を守るため最大限の努力をしていく」

 かみや・けんじ 岡山県出身。広島大医学部卒。同大緊急被ばく医療推進センター長などを務める。2011年4月から県の放射線健康リスク管理アドバイザー、同年7月から福島医大副学長。専門は放射線医学。67歳

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