県教委は二〇二二(令和四)年度に米国への公費留学支援制度を創設する。県内の高校を卒業後、米国の大学に入学した学生に対し、返済不要の奨学金を四年間にわたり支給する。次代の本県をリードし、世界へ羽ばたく人材の育成を目指す。この事業を通し、中高生らの国際社会に対する関心を高め、国際人の芽を育てたい。
留学生一人当たり年間三百八十万円程度を上限に奨学金を交付する。在学四年間で総額が最大約千五百万円になる計算だ。全国の公費留学制度で、これほど手厚い内容はまれだという。ただ、受給資格を得られるのは毎年「一人程度」で、進学先も一定の水準にある大学との条件が示されている。来年三月の卒業生から支援第一号が誕生する。
日本学生支援機構の留学者数調査によると、二〇一九年度に海外で学んだ日本人学生は十万七千人に上る。その多くが短期留学で、一年以上滞在した学生は2%に満たない。長期留学は経済的な負担が大きく、実現するのは容易でないようだ。今回の留学制度は腰を据えて知識や技術、国際感覚を身に付けたい若者にとって、またとないチャンスと言える。
県教委は新年度、留学を希望する高校生らを対象に準備プログラムを展開する。海外の大学で学ぶために必要なディベート能力や発表技術を磨く。意欲ある生徒が集い、互いに研さんしながら、国際人としての基礎を養う場になることを願う。
奨学金の財源は民間企業からの寄付一億円を充てる。この企業の社長は、二本松市出身の歴史学者・朝河貫一博士のような向学心にあふれた生徒を応援したい-と浄財を寄せた。朝河博士は米国のエール大などで研究と教育に打ち込み、軍国主義の台頭を批判した。太平洋戦争直前には米大統領から昭和天皇への親書送付を働き掛け、開戦を回避しようと努めた。この不戦の精神は、その後の平和主義の根底に息づく。
くしくも現在、ロシアがウクライナに侵攻し、戦後に積み上げた国際秩序が揺らいでいる。エネルギーや食糧の多くを海外に依存している日本は、これまで同様の歩みを今後も続けられるのか。未来を担う若者は今こそ自国の立ち位置を見つめ直し、世界に目を向けてほしい。
若人には大いなる可能性がある。あらゆる分野で国際化が進む中、世界での活躍を夢みる挑戦者が次々と登場する風土を築きたい。そのために留学制度の定着と財源拡充は欠かせない。(角田守良)