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【台湾輸入規制全廃】販路拡大の弾みに(9月6日)

2025.09.06 09:11

 台湾が東京電力福島第1原発事故発生後に導入した福島県などへの輸入規制を全面撤廃する方針を発表した。日本産の全食品に義務付けていた産地証明書や、福島県など5県産食品に求めている放射性物質の検査報告書を廃止する。原発事故発生前は県産農林水産物の主要な輸出先だっただけに、販路拡大とさらなる風評払拭への弾みにしたい。

 台湾当局は、2011(平成23)年3月以降の日本産輸入食品計26万ロット余りと、2022(令和4)年2月以降の5県産食品2万ロット余りを対象に放射線の検査を実施した結果、全て問題がなかったことを規制撤廃の理由に挙げている。科学的根拠に基づく国や県の粘り強い説明が実ったと言えよう。

 県によると、原発事故発生前、台湾には主にモモやコメが輸出され、輸出量は2009年度が計約76トンで国・地域別で1位、2010年度が計約21トンで香港に次いで2位だった。2023年度はモモ50キロ、2024年度はコメ200キロにとどまっていた。規制撤廃で輸出への生産者やJAの意欲も高まるだろう。ただ、一度販路が縮小した台湾の店舗に再び県産農産物の棚を復活させるのは容易ではない。福島県産モモの輸出先は東南アジアへシフトしており、十分な量を確保できるかといった課題もある。生産者やJA、県は台湾を含め海外への輸出戦略を見直す必要がある。

 規制撤廃は台湾からチャーター便などで県内を訪れるインバウンド(訪日客)にも良い影響を与えると期待される。県によると、2024年の県内の外国人延べ宿泊者数は28万9160人泊で、台湾が国・地域別で最多の15万4510人泊と半数超を占めた。今後、台湾に県産農産物の売り込みを強化して魅力を広めるとともに誘客をアピールすれば、福島県への関心はさらに高まるのではないか。

 東京電力が福島第1原発で放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出を開始してから2年が経過した。海外への県産農林水産物の販路拡大のためにも、東電には安全かつ着実な作業が求められる。国と県は残る中国、香港、マカオ、韓国、ロシアの五つの国・地域の全面撤廃に向け、これまで以上に科学的根拠に基づく正確な情報発信に努めてほしい。(斎藤靖)