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【最低賃金引き上げ】格差の縮小が重要だ(9月4日)

2025.09.04 09:10

 本県の最低賃金が時給955円から1033円に引き上げられ、初めて千円を超える見通しとなった。物価高にあえぐ県内の労働者にとって朗報だが、急激な引き上げで中小企業の倒産や廃業を招き、地域の雇用が失われては元も子もない。国は賃上げしやすい地方の環境づくりに努め、東京圏などとの格差縮小を図っていく必要がある。

 最低賃金は厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会が引き上げ額の目安を示し、それを踏まえて各都道府県の地方審議会が決めている。本県は2016(平成28)年度以降、新型コロナ禍を除き3%を超える引き上げが続いてきた。福島地方最低賃金審議会は今回、中央が示した引き上げ額の目安63円を15円上回る78円の引き上げ方針を決めた。中央の目安を上回るのは3年連続で、昨今の物価高や人手不足の現状、他県の引き上げの動向を踏まえれば、妥当な判断と言えよう。

 ただ、賃上げできるかどうかは事業者の経営努力に委ねられる。東京商工リサーチによると、昨年度の県内企業の倒産発生率は0・321%で、過去10年で最も高く、都道府県別でワースト9位だった。新型コロナウイルス感染拡大に伴う実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済や物価高、人件費の上昇などで、倒産に追い込まれる企業が多いとみられる。最低賃金の大幅な引き上げは、経営悪化に追い打ちをかけかねない。これまで以上に中小企業が置かれた立場を直視した支援策が求められる。

 政府は最低賃金の全国平均を「2020年代に1500円」とする目標を掲げている。しかし、重要なのは格差の縮小だ。本県の最低賃金は、決定通りに引き上げられたとしても、中央が示した目安の全国平均1118円を85円下回る。目安通りに引き上げる東京都の1226円に対し、193円の開きがある。東京圏から地方への人の流れを生み出すには、地方で優先的に底上げし、差を埋めていかねばならない。でなければ、地方の中小企業が疲弊するばかりだ。他県では、人材の流出を防ぐため、独自に賃上げの支援策を講じる動きもある。石破茂首相は、中央の目安を上回った地域に財政支援すると表明している。速やかに詳細を示すべきだ。(紺野正人)