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【災禍の伝承】首都圏の動きにも注目(9月9日)

2025.09.09 09:20

 東京都内の人の往来はかまびすしく、都心は訪日客でにぎわう。災害とはまるで無縁な雰囲気に首都の危うささえ感じてしまう日常で、災禍を伝承し、防災意識を高める地道な取り組みも続いている。間もなく発生から14年半が経過する東日本大震災と東京電力福島第1原発事故をはじめ、各地の災禍の記憶と教訓を広める上で、首都圏の動きにも期待し、関心を寄せたい。

 東京・六本木の大型商業施設・東京ミッドタウン内の「21/21デザインサイト」で開催中の企画展は注目に値する。「そのとき、どうする?」と題し、来館者に防災を自分事と捉えてもらう趣向が練られている。

 参加型の企画では、「いまここで大災害が起こったら、どうする?」など10項目の問いが用意され、来館者の答えは会場内で共有される。共感した内容はシールにして持ち帰れる。それぞれの考えに学び、新しい気づきを得合う中で防災への一体感が生まれる仕組みが行き届いている。

 7月4日の開幕以降、来館者は1万人を超す。会期は11月3日までの4カ月に及び、通信大手、建築設計事務所、被災地の工房など異業種の協力が長期企画を支えている。福島民報社は通年企画「365日の防災欄」をまとめたパネルを出展した。

 都内を会場に災害を自分事化する取り組みは、これ以外にもさまざまある。「震災伝承施設」深化の会と銘打った報告会が先ごろ開かれ、いわき市のいわき震災伝承みらい館と岩手、宮城両県の伝承施設が活動内容を紹介し、日頃の備えを訴えた。

 今春初開催された「防災新視点サミット」では、普段持ち歩くかばんにあめ玉を入れたりするだけで防災の始まりになる―といった知恵の数々が発信され、日々の生活習慣の中にも防災の種や芽はいくらでもあると伝えた。災害の現場と被災者の暮らし、復興の歩みに常に最前線で向き合う全国の地方新聞社の協力で開催されたのも特筆される。

 災禍の教訓を次代に受け継ぐ取り組みは行政主導、官民連携など、いろいろある。とりわけ、民間主体の活動は資金などの制約、課題がある中で、企画を自発的に立ち上げる熱量が底辺にあるから心強い。積極的に参加し、応援していきたい。(五十嵐稔)