安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件を受け、参院選の選挙戦最終日の9日、福島県内の有権者は「選挙は民主主義の根幹。民主主義を守るために貴重な一票を投じたい」と10日の投票に向け候補者の訴えに耳を傾けた。物価高や新型コロナウイルス感染症対応など課題が山積する中、有権者は候補者の政策を吟味し、思いを一票に託す。党首の街頭演説が行われた会場には警察官が多数配置され、物々しい雰囲気に包まれた。
いわき市の会社員菅野瑠花さん(22)は安倍氏の銃撃事件に衝撃を受けた。一方で、各候補の政策を有権者が判断する選挙の重要性を再認識した。これまで政治にあまり興味がなかったが、最近は交流サイト(SNS)を活用した若者向け情報発信の機会が増えるなど、徐々に関心が高まっていると感じている。「自分たちの社会をよくするために権利を行使したい」と投票所に向かう。
川俣町の一般社団法人役員の菅野文吉さん(70)は「(銃撃事件は)許しがたい暴挙。民主主義の根幹を揺るがすような事件が起きたからこそ、投票という貴重な権利をしっかりと行使するべきだ」と強調する。
暮らしの改善や復興の加速など有権者はさまざまな思いで投開票日を迎える。
会津若松市の会社員永井祐佳さん(23)はテレビのニュースなどを見て候補者の政策や訴えをチェックしてきた。賃金が上がらず物価は高騰して生活する中で不安もある。「未来の自分のためにも投票に行きたい」と誓った。
相馬市で避難生活を送るパート従業員佐久間浩子さん(57)は、大熊町の自宅が帰還困難区域の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の外にある。参院選で政府が具体的な方針を示していない拠点外の帰還時期や除染の範囲、家屋解体時期に関する政策を掲げてほしいと願っていたが「胸に響くものはなかった」と残念がる。
現時点では古里に戻らないと考えており、生活再建のためにも国に自宅を早急に解体してほしいと願う。「各党や候補者が訴えた復興施策をもう一度見極め、被災者に寄り添ってくれる人に投票したい」と力を込めた。
福島市飯坂町で旅館業を営む紺野正敏さん(72)は「コロナ収束後の観光産業が通常時に戻るには時間がかかる。長期的な視点で意義ある施策を講じてほしい」と注文した。