日本のアニメはなぜ、世界に誇る文化になり得たのか。きょう17日から12月11日まで須賀川市文化センターで開かれる「アニメージュとジブリ展 一冊の雑誌からジブリは始まった」に足を運ぶと、名作は人のつながりの中から生み出されると教えられる。「特撮の神様」と称される円谷英二監督の古里で、道なき創作に挑む人々の息吹に触れる意義は大きい。
ジブリ展は、1978(昭和53)年に創刊された日本初の本格的商業アニメ雑誌「アニメージュ」(徳間書店)に焦点を当てる。アニメブームの草創期から作家や裏方の制作スタッフを盛んに誌面で取り上げ、発掘した才能をファンとともに育てた。2代目編集長の鈴木敏夫さんが宮崎駿監督を見いだし、漫画「風の谷のナウシカ」を連載、映画化したことで知られる。後に「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」など幾多のヒット作を生み出すスタジオジブリの設立につながった。
ジブリ展では、誌面やアニメに使用された絵(セル画)、立体作品など約200点を展示する。プラモデルのヒットによってアニメビジネスの在り方を変えた「機動戦士ガンダム」、長年にわたって新作が作り続けられている「ルパン三世」などのコーナーも設けられる。
作品とともに、アニメスタジオの仕事ぶりを伝える写真や資料にも注目したい。「ナウシカ」のテレビ初放送で現場責任者を務めた映画プロデューサーの奥田誠治さん(柳津町生まれ)は、「アニメ界で働いている人の息遣いを感じられる」と見どころを語る。ジブリ作品には、奥田さん以外にも本県関係者が携わっている。
須賀川市は、アニメージュの表紙をデザインしたフォトスポットを市内外7カ所に設置した。市内の飲食店17店は期間中、ジブリ作品をモチーフにしたメニューを提供する。須賀川タクシー協議会はジブリ展のチケットを提示すれば特別料金で運行するなど、歓迎と盛り上げムードが広がっている。市内には須賀川特撮アーカイブセンターなどもあり、周遊すれば地域に根付く映像文化に親しめるだろう。
少女ナウシカは産業文明が壊滅した終末世界で、全ての生き物や自然を分け隔てなく愛し、守る姿勢を貫いた。気候変動、戦争、感染症などに直面する今、名作に込められた警鐘や願いが現実味を持って浮かび上がる。作り手の思いに心を寄せれば、持続可能な未来へのヒントを探る機会にもなる。(渡部 育夫)