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無言の訴え(7月25日)

2025.07.25 09:08

 被写体のまなざしに、暗い未来は反射してはいない。1枚ごとに清らかな情熱がにじむ。戦時下の兵学校生を収めた写真展が来月17日まで、福島市写真美術館で開かれている▼戦後80年を記念し、企画した。撮影したのは海軍特別報道班員だったフリーカメラマン真継不二夫さん。舞台は広島県江田島市にあった海軍兵学校だ。軍艦で誇らしげな表情を浮かべる。遠泳に挑む鍛え上げられた肉体は瀬戸内の陽光に輝く。日が落ちると凜[りん]として書に向かう。90枚ほどの作品に、みずみずしい青春の群像が躍る▼真継さんは学生から受けた印象を書き留めている。「一意奉公、如[い]何[か]にして醜[しこ]の御[み]楯[たて]となり、水[み]漬[づ]く屍[かばね]となるかの一念にのみ生きるのである」。国を守る楯となり、国のため殉じる―。今の高校生から大学生に当たる。友と語らい、学び、恋をする。甘い日常に夢を膨らませていたに違いない。口には出さずとも▼世界は、身を賭して大海に消えたその思いを受け継いでいるのだろうか。戦火はやまず、核を巡り挑発が続く。分断の亀裂は一層深まる。そんな今だから、触れてみよう、屈託のない笑顔に。「不戦を」。無言の訴えがパネルに鋭く反射している。<2025・7・25>