「あっち向いて、ほい」―。子どもの頃、きょうだいや友達と何度も繰り返した。注意しても相手の指の動き通りに顔が動いたのは、なぜだろう▼山形県の大学生が、ユニークな新聞広告をデザインした。「まずは、左下をご覧ください」の文字下に矢印がある。素直にその方向に目を向ければ、実は右下。だまされた。隅にある「矢印のように詐欺師は簡単にあなたの行動を操ります」とのメッセージに、ハッとさせられる▼県内の成り済まし詐欺の被害額は、7月末までで件数、被害額とも過去最高に上った。警察と防犯団体は懸命に啓発に努めているのだが…。警戒しても、「正常性バイアス」が邪魔をすると専門家は指摘する。「被害に遭う」と終始張り詰めていては、脳に大きな負担がかかる。パンクを防ぐため「自分は大丈夫」と、本能が備えを解く瞬間がある。それで、うそを信じてしまうというわけだ▼先の新聞広告には、左下に「だまされにくい人かも」と出ている。正しい方向に導いてくれるのは、やはり家族や冷静な隣人か。地域力を高めたい。「気を付けよう」の呼びかけを忘れずに。知らない電話の「あっち向いて」は巧妙だから。<2025・9・2>