「はいチーズ」は今や昔の感がある。令和の若者は予告なしにスマホカメラで連写する。「身構えない自然な表情を撮れるから」だという。最も映える一枚を選んですぐに共有する▼フィルムカメラの時代は、そうはいかなかった。フィルムの残りとにらめっこ。現像代を考えれば、まさに一枚入魂だった。シャッターを切る瞬間をかけ声で伝え、撮られる側は少しでも体が細く見えるよう斜に構える。小顔に写るよう顎を引いた。それでも目が半開きだったり、「赤目」になったり…。セピア色の笑い草は数知れず▼スマホやデジカメが全盛の世に逆行する。フィルムカメラに使われた古いレンズが若者に人気という。県北地方の写真店主は語る。キリッとした輪郭を表す今のカメラレンズよりも、淡くレトロな描写が「エモい」と受けている。逆光撮影で写真が白っぽくなるフレア、光の輪が映り込むゴーストさえ魅力だとか。接続器具でデジカメに装着すれば連写にも対応できる▼古き良きものは、得も言えぬ感動、懐かしさ、切なさを備える。そのエモーション(感情)が若者言葉「エモい」の語源とされる。古語なら「をかし」か。もののあはれは、時を超えて通じ合う。<2025・9・7>