X メニュー
福島のニュース
国内外のニュース
スポーツ
特集連載
あぶくま抄・論説
気象・防災
エンタメ

福島県郡山市の受験生死亡事故 男に懲役16年求刑 検察側 危険運転致死傷罪主張

2025.09.11 10:55

 福島県郡山市のJR郡山駅前で1月、酒気帯び状態で乗用車を運転し、受験生の女性(19)をはねて死亡させたなどとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた郡山市、無職池田怜平被告(35)の裁判員裁判論告求刑公判は10日、地裁郡山支部(下山洋司裁判長)で開かれ、検察側は懲役16年を求刑し結審した。被害者参加制度による遺族の意見陳述が行われた。母と弟は、歯科医師を目指して歩んでいた女性が理不尽に命を絶たれた無念さを、声を詰まらせながら訴えた。


 受験生の女性は大阪府箕面市、横見咲空さん。池田被告が赤信号を故意に無視したかどうかが争点となった。

 検察側は論告で、池田被告が事故を起こす直前、衝突しそうになったタクシーを回避するなど運転操作が可能だったことから「信号表示に従うことが十分にできる状態だった」と指摘した。

 乗用車を加速し続けながら信号無視を繰り返していたとして「信号表示に従う意思がなかったことが認められる」と主張し、危険運転致死傷罪が成立すると強調した。


■弁護側 故意の信号無視「認められない」

 弁護側は最終弁論で、池田被告は飲酒や眠気で注意力散漫な状態だったと説明。車のエアコン機能を調整しようと目線を落とし、眠気覚ましのために目をこすっていた状況を述べた。「赤信号を無視しようとしていたことは認められない」と故意性を否定し、危険運転致死傷罪は不成立だと反論した。

 判決は17日午後3時から言い渡される。


■遺族が意見陳述 予備校代出してくれてありがとう 親に感謝伝えられず 死亡女性 事故前、弟へ打ち明ける

 「受験が終わったら、親に予備校代を出してくれてありがとうと言う」。死亡した女性は受験を巡って衝突した親に感謝の気持ちを伝えると、弟に打ち明けていた。しかし無謀な飲酒運転が、家族が心を通わせる機会を奪った。母親と弟の意見陳述では、かけがえのない存在を失った悔しさが語られ、夢を実現させようとひた向きだった女性の姿が浮かび上がった。

 女性が歯科医師を志したのは、幼少期から始めた歯の矯正がきっかけだった。将来の夢をつづったノートには「歯医者になって周りにも歯の矯正をしてあげたい」と書き記されていた。歯科医院を開き、母や弟も勤務する未来を家族で話し合った。

 母親は涙で言葉を詰まらせながら、震えた声を絞り出した。「娘が自分より早く死ぬなんて。自分が代わってあげたい」

 1年間の浪人生活は勉強漬けだった。予備校から夜中に帰宅し、寝過ごさないようにと母親と一緒に寝ていた。勉強のストレスで、持病のアトピー性皮膚炎が悪化することも。

 弟は女性が郡山市に向かう前日のやり取りが忘れられない。症状が出た肌に保冷剤を当ててあげた。かゆみに耐えて臨む遠方での試験は不安だったのだろう。一緒の部屋で寝ようと持ちかけられた。しかし断ってしまった。これが最後の会話となり、「一緒に寝たら良かった」と後悔を口にした。

 家族は喪失感にさいなまれている。母親は最近、ようやく仕事に復帰できたが、涙を流さない日はない。祖父母も体調を崩したままだという。

 「この事件が軽視されては、新たな犠牲者が生まれるかもしれない」。母親は「危険運転罪」の成立が争われている今回の裁判の行方が、社会に影響を与えると語気を強めた。「どうか裁判官と裁判員の方々には、重く受け止めていただきたい」。法廷に悲痛な叫びが響いた。

 池田被告は一点を見つめ、遺族の意見陳述を聞いていた。最終陳述では時折手で涙を拭いながら「身勝手な運転で命を奪ってしまった。誠に誠に、申し訳ございませんでした」と、遺族の方を向いて頭を下げていた。