仮に自らの家計、勤務先、居住する自治体の懐具合を十分に把握できないとすれば将来は不確かで、暮らしの展望は容易に描けない。東京電力福島第1原発の廃炉は県民生活の安全・安心と密接に関わり、本県の地域振興も左右する。東電は大幅赤字を計上した2025(令和7)年四半期決算を発表している。この機会を捉え、県民に対し経営実態と財務状況を丁寧に解説する機会を設けてほしい。
東電は7月、2025年4~6月のグループ決算で、純損益が8576億円の赤字だったと発表した。自ら負担する福島第1原発の廃炉関連費用として、9030億円の特別損失を計上したことが響いたとしている。通期でも大幅な欠損が避けられないとの見方が出ている。経営陣は「廃炉の進捗[しんちょく]を示すもの」と前向きな認識を示しているが、こうした実態は財務状況への疑念や不信を招きかねない。
国は廃炉費用として総額8兆円を想定しているが、今回の特別損失を含めて支出は5兆円に迫っている。難関とされるデブリの搬出には想定外の出費がかさむ懸念があり、行政側の見立てを上回る可能性は否定できない。賠償費用は他の電力会社とともに支払う。大幅な収益改善への期待が現段階で見込めない中、さまざまな負担を強いられている。一方、6兆5千億円(2024年度末)という巨額の有利子負債の存在にも無関心ではいられない。
原発事故処理の費用負担の仕組みは複雑な上、今回の四半期決算では「特別損失」などといった専門的な用語も飛び出した。誰もが理解しやすいよう、工夫を凝らして、やりくりの実態を伝えていくべきではないか。
県内金融機関の一部は、経営トップ自らが各地に出向き、取引先などに自行の業況を語りかける取り組みを続けている。こうした地域密着の開かれた姿勢を、大いに参考にしてもらいたい。
原発事故で経営危機に陥った東電は、再建策である「総合特別事業計画(総特)」を策定し、政府の認定を受けている。長期的な視点から廃炉を担う事業者の体力を把握し、国民に開示するのも、国としての重要な役割と言える。原子力政策は国策として進められた経緯を忘れてはならない。(菅野龍太)